私は「私」という一人称を使うことが多い。けれど、正直、あまりしっくりきていない。これだという一人称が、いまだに見つからない。小さい頃からそうだった。自分をどう呼べば良いのかわからなかった。人生で一度たりとも、一人称にしっくりきたことがない。だから、そもそも一人称をあまり言わない。「私」と書いているのは、そのように書くしかないからである。「僕」もちょっと違うかなあ。いっそ「ボク」のほうがキャラっぽくて良い。あるいは「わたくし」とか。「池田」も悪くないけれど、そんなに好きな名字ではないから、やっぱりしっくりこない。英語圏なら、そもそも悩む必要がない。性別やアイデンティティに依らず「I」で済む。正直、かなり羨ましい。
そういうわけだから、これからも一人称には悩み続けるだろう。なお、上に挙げた中で一番しっくりきているのは「わたくし」である。だって、ほら、わたくしと言ってみるだけで、まるでお嬢様みたいな気分になれますの。うふふ、わたくし、生まれながらにしてお嬢様なのですわ、きっと。
ところで、わたくし、一人称も苦手ですけれど、二人称も苦手ですの。目の前にいらっしゃる殿方を、お名前でお呼びするのが少し恥ずかしいというか……いいえ、恥ずかしいことはないのですけれど、なんだか、こう、勇気が要りますの。おわかりかしら? つまり、わたくしは、お名前をお呼びするのが苦手なの。うふふ、おかしいかしら。だって、こうして、わたくしの文章をお読みになっているあなたのことは「あなた」とお呼びできるのに、二人きりになった途端、どうすればいいかわからなくなってしまうんですもの。わたくしがあなたのお名前をお呼びするときは、それなりに勇気を振り絞っているのです。