諦めてよかったと思うことがたくさんある

池田大輝
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たとえば、映画監督の夢。学生時代は映画監督を目指して映画を撮っていた(まあ、その時点で叶っているけど)。でも、コンテストではあと一歩及ばず、そのような会社にも入れず、仕方なく諦めることになった。映画監督の夢を諦めて入ったのはゲーム会社。ゲーム業界は選択肢になかったけれど、なぜか、入ることになった。入ると、すぐにPVの仕事を任せてもらえた。これが楽しかった。映画をやっていたときには感じなかった高揚感。物語を紡いでいる感覚。それから、自分でもゲームをつくるようになった。いわゆるギャルゲーというやつ。そんなゲームを今までやったことがなかった。オタクっぽいと敬遠していた。でも、やってみると面白かった。キャラクターが生きていると感じた。ヒロインそれぞれに個性があって、それがどこか新鮮で、キャラクターに向き合うということを知った。映画をやっていたときには気づかなかった。キャラクターをありのままに描く、ということを意識したら、シナリオが書けた。文章を書くのはずっと苦手だったのに、なぜか、書けた。ずっと自分は映像の人間だと思っていたけれど、文章、という選択肢もあるんだな、と思いつつある。映画をやっていたら、気づかなかったかもしれない。いや、どうかな。どのみち脚本は書いていたかも。まあ、でも、ハーレムものを書くことはきっとなかっただろう。ハーレムものは書いていて楽しい。妹はハーレムは苦手と言っていたけれど。

なんの話だっけ。そうだ、諦めたからこそ出会えたものがある、という話。たまにはこんなふうに寄り道するのも悪くない。せっかくだし、もう少し寄り道しようか。

ハーレムものにおいては、複数のヒロインのうち、一人以外を諦めなければならない。二股はできない(できるゲームもあるが)。でも、特定のルートに入る前にセーブしておけば、そこからやり直して別のヒロインを選ぶことができる。要するにパラレルワールドだ。諦めることは、パラレルワールドの扉を開くことに等しい。諦めた先の世界線でもう一度諦めると、原理上は元の世界線に戻ることができる。パラレルワールドは、一般には線形ではない。つまり、何度か諦めることによって、元の世界線を諦めなかった場合の正規の道のりをショートカットできる可能性がある。

ちょっと、難しい? じゃあ、この話を理解するのは諦めてください。

@radish2951
ゲーム作家。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink