好きな人に告白するのは難しい。勇気がいる。でも、それよりももっと難しいことがある。それは、その人を好きになることだ。
誰かを好きになることは、自分の意志でできることじゃない。好きになろうと思ってなれるわけじゃない。好きという気持ちは生理現象に近い。コントロールすることはできない。
心を奪われるという言葉がある。そう、奪われるのだ。心を差し出すのではない。誰かが目の前にやってきて、あなたの心を強奪するのだ。
誰かを好きになったあなたは被害者だ。一方的に奪われた心はあなたの身体に大きな孔を空ける。その空隙は気持ち悪くて、不安で、なにかで埋めなければいけない気がする。
だから、取り返すしかないのだ。奪われた心を奪い返す。それが告白だ。告白が成功するとき、二人の心はゆるやかに溶け合っている。だから、孔にすっぽりとはまる。告白が失敗するとき、心は固く、こわばっている。孔に押し込めようとしてもうまくはまらない。苦しい。痛い。奪われたものを取り戻しただけなのにあんまりだ。
私の心を返してください、と言うことはできる。
私の心を奪ってください、と言うことはできない。
いや、できるのかな? 不可能とも言い切れない気がする。じゃあ試しに言ってみようか。
私の心を奪ってください。
あなたの心ごと、奪い返してあげますから。