有名人と一般人

池田大輝
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公開:2026/4/17

有名人の定義が、一昔前とはかなり変わったように思う。20年くらい前までは、テレビに出る人が有名人だった。あるいは映画やラジオでも結構。有名人といえば、誰もが知っている存在だった。

今は違う。チャンネル登録者数100万人のYouTuberであっても、知らない人のほうが圧倒的に多い。仮に全員日本人だとしても、割合は1%にも満たない。一人でいくつもアカウントを持てたりするから、実際にはもっと少ないだろう。その界隈で有名でも、一歩外に出ればたちまち一般人と化す。同じことはいろんな業界にいえる。たとえば、研究の世界。研究者という生き物はそもそも数が少ない。そのうえ、きわめてニッチであり、一般に広く知られるような職業ではない。それでも、というか、だからこそ、業界内では有名人扱いされやすい。物理の研究者であれば、ノーベル物理学賞の受賞者の名前くらいは誰でも知っているはず。一般人で、即答できる人がどれだけいるだろうか?

あらゆる界隈がニッチになった。テレビもラジオも新聞も、もはや大衆向けのメディアとして機能していない。自分の好きなジャンル、得意なジャンルに閉じていれば、それで良い時代になった。狭いニッチの中であれば、簡単に有名人になることができる。ほんの少し努力すれば、いろんな人からチヤホヤしてもらえる。承認欲求を満たす道具はいくらでもある。というか、世界そのものが道具と化しているともいえる。

そうなると、もはや一般人のほうが珍しいのではないか。SNSをやっていない人は少数派だろう。一切の発信活動をせず、聖職者のように慎ましく生きている人はきわめてレアだと思われる。そのような人はネットから存在が見えない。再生回数も、いいね数も意味をなさない場所で、ただひっそりと生きている。そのような生き方は、現代においてはきわめて特殊であり、全く一般的ではない。

一昔前の意味での有名人になることは、もはや不可能だ。世界的な、あるいは国民的なスターは二度と現れない。そのように見えたとしても、それはニッチな界隈におけるフィルターバブルが見せる幻想でしかない。いや、最初から幻想だったのだ。世界的スターも、国民的スターも、そんなものは最初から存在しなかった。あったとしても、金儲けのためにメディアが仕組んだ広告に過ぎない。スターだと思い込んでいたものは、文字通り広告塔だった。そういう事実が、明るみになっただけなのだ。

ここ「しずかなインターネット」には広告がない。おすすめ機能もない。ただ、私の書いた文章が並んでいるだけの真っ白な空間だ。Xにポストしているけれど、特に宣伝はしていない。それをなぜか、あなたは見ている。この場所には有名も無名も、一般も特殊もない。私がいて、あなたがいる。それで充分ではありませんか。

@radish2951
恋愛ゲームをつくっています。毎日21時頃にエッセィを更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink