畑健二郎先生は『トニカクカワイイ』という漫画の作者であられる。『ハヤテのごとく!』のほうが有名な気がするけれど、私は読んだことがない。『トニカクカワイイ』は途中まで(20巻くらいまで?)読んだ。主人公のナサくんが、ヒロインの司ちゃんと結婚するところから始まる新婚ラブコメである。ギャグ多めの軽快ラブコメ……と思いきや、なにやら壮大な物語が始まりそうで。漫画をほとんど読まない私だが、とても楽しく拝読している。
ファン、というほどではないけれど、畑先生には妙なシンパシーを感じる。新海誠監督、森博嗣先生にも似たものを感じる。いや、新海さんは少し違うかな。畑先生と森先生は個人的に同じカテゴリ。どう似ているのかを説明するのはほぼ不可能。というのもあれなので、もう少し言語化を試みてみる。
畑先生のことは詳しく知らないので、森先生について書くと、森さんは自宅の庭に巨大な鉄道庭園をつくっている。線路を引き、車両をつくり、庭に鉄道を走らせている。その規模はすさまじい。ディズニーランドのアトラクションにあってもおかしくない。YouTubeに動画が上がっているのでぜひご覧いただきたい。
畑先生も、似たようなことを漫画の中でやっているように私には見える。『トニカクカワイイ』にはキャラクターがたくさん登場する。巻が進むにつれてキャラクターによって世界が拡張されていく感覚。漫画としてはとりわけ珍しいことではないのかもしれない。でも、なんとなく、物語ではなく世界をつくっている。そんなふうに私には見える。
箱庭を、世界をつくる。私がやりたいのも同じことなんだ、と気がついたのはつい最近。世界は、器はそれ自体では意味を成さない。世界の中に息づく命のひとつひとつが世界をつくる。畑先生も、森先生も、私も、創造主ではない。ただ、器を用意したに過ぎない。
ところで、畑健二郎先生と森博嗣先生にはもうひとつ共通点があった。畑先生は、結婚報告と同時に『トニカクカワイイ』を発表した。森先生のエッセィを読むと、ほぼすべての本に奥様(森先生に倣ってあえて敬称)のエピソードが登場する。惚気というレベルではない。このような人と結婚してしまうと、世界に呑み込まれることは避けられない運命のようである。