ここには書けないことばかり

池田大輝
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公開:2025/8/25

ここ「しずかなインターネット」に日々書いているエッセィ(森博嗣先生に倣ってあえて小文字)をAIに読ませると、一通りは褒めつつも「もっと具体例を増やせ」などと言ってくることが多い。抽象的すぎて具体例がないから、読者が共感しにくいとのこと。たしかに抽象的だし、共感しづらいと思う。ということで今回は、もっと共感できる内容に寄せてみたい。

仕事をしたことのある人なら共感してくれると思うけれど、仕事で知り得た情報のほとんどは機密である。ネットですでに公開されているものを除いたすべての情報が機密だ。これは退職後も基本的には同じ。私がファルコムにいた頃の話を書いているのは、ほとんどが公開されている情報だからだ。私が『英雄伝説 閃の軌跡IV -THE END OF SAGA-』(敬意を込めてあえて正式名称)に携わったことはアットウィキを見ればわかる。当然ながら、今のファルコムについてはなにも知らないし、知っていたとしても書くことはない。

自分の創作についても同じ。すでに公開されている作品については、概要の紹介くらいなら載せることができる。けれど、内容の詳細(図らずも「概要の紹介」と韻を踏んでいる点に留意されたい)を書くわけにはいかない。『さくらいろテトラプリズム』は舞台が秋田、季節は秋の恋愛ファンタジーアドベンチャーゲームである。これくらいなら書けるが、ではどういうオチか、どういう想いを込めたのか、そういうことは書いてはいけない。ネタバレになってしまう。「〇〇について書くことがネタバレになる」という記述がネタバレになることもある。メタなネタバレ、通称メタバレ(そんな言葉はない! いや、あるかも?)。

プライベートはさらに書きづらい。私一人に閉じている話題(たとえばスタバが好き)なら書いても良いが、ほとんどのことには他者がかかわる。〇〇さんのことが好き、とここに書けば、当然、〇〇さんに迷惑がかかる。過去の恋人の話はたまに書くけれど、万が一彼女に読まれたとしても、これくらいなら笑って許してくれるかな、というラインに留めている。幸い、今のところ削除依頼は届いていない。読んでいないか、笑って許してくれたかのいずれかだろう(激怒しつつ黙認している可能性が排除できないことに、あとから読み返して気づいたけれど、まあ、大丈夫だと思う)。

このように、書きたくても書けないことがたいへん多い。かろうじて書けるネタをうまく選び取って、毎日エッセィを書いている事実を褒めるという発想がAIにはないらしい。今回はあえて細かいこと、具体的なこと、どうでもいいことを盛り込んでみた。なお、この文章にはメタバレが少なくともひとつ含まれている。賢明な読者であるあなたなら、きっとわかるはず。本質から目を逸らさせるという意味で、具体例を書くことは有効なのだな、と学びになった。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。毎日21時頃にエッセィを更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink