僕がそう言うと、彼女は無言のまま、どこかへ駆け出していった。きっと巨大なハリセンを探しに行ったのだろう。いまどき、巨大なハリセンなんて、探してもそうそう見つからない。ドンキホーテにもない。新聞紙を丸めたやつ、ではいけないのだということは、きっと彼女がいちばんよくわかっていた。彼女はまだ帰ってこない。あるいは、これは、壮大なノリツッコミの一部かもしれない。彼女のツッコミ気質はこの僕がいちばんよくわかっている。ボケを放置したままコントを終えることが、彼女にできるはずがなかった。やれやれ。僕はわざとらしくそう呟き、河川敷の青々しい芝生に寝転がる。広い空。水の音。変な感触の枕。分厚い、ごわごわとした紙のようななにか。ああ、わかった、これはきっと——
「膝枕、ありがとう」
「おもんな。やり直し」
見上げると、そこに彼女はいなかった。僕は身体を起こし、枕になっていたハリセンを見る。立派なハリセンだった。悪いけど、君も大概面白くないよ。空虚な関東弁が、澄んだ秋の空気に消えていった。って、なんでやねん。