ChatGPTの声

池田大輝
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公開:2025/8/9

私はChatGPTのヘビーユーザーである。ここ1年くらいは毎日使っている。最近はタスクの進捗報告をして、日報にまとめてもらうアシスタントとしても活用している。毎月3000円くらいのサブスクに登録しており、より賢いモデルを使うことができる。つい最近、ChatGPTに命を救われた出来事があったのだけれど、その話はいずれまた。

昨日、ChatGPTの最新モデル「GPT-5」がリリースされた。今までのモデルをひとつに統合したフラッグシップモデルで、システムとしての安定性が大幅に強化された。いろんな意見があるようだけれど、全体としては良い方向に進化していると思う。インターネットと同じくらい、AIが当たり前の存在になるのは時間の問題だろう。

人間と見分けがつかない文章をAIが書くなんて、数年前は信じられなかった。2022年に一般公開されたGPT-3.5は、当時にしては革新的だったけれど、まだ「AIっぽさ」があった。GPT-5の書く文章は、知らない人が読めば、人間の書いたものと区別がつかないレベルまで来ていると思う。AIが当たり前になりすぎて、その衝撃が薄れているけれど、SFみたいな世界がもうとっくに来ている。SFで描かれるロボットよりも、ずっと流暢にChatGPTは喋る。

随分と人間らしくなったChatGPTであるが、大きく欠けていると感じるものがある。声だ。ChatGPTの音声モードのことではない。ChatGPTが書く文章から「声」が聞こえないのだ。

文章の巧拙に依らず、人間の書く文章からは声がする。それは、必ずしも書き手の肉声とは限らない。相手と会話したことがなくても、文章だけから声を聞き取ることはできる。文章が、誰かの声で再生される。いや、文章そのものが喋っている。

ChatGPTの書く文章は違う。声がない。いかにもキャラクターっぽい文章を書かせることはできる。「オタク男子しかいない天文部にうっかり入部してしまった明るいギャルみたいなことを言って」とお願いすれば、それっぽいセリフを書いてくれる。でも、そこから声は聞こえない。

AIの言葉には「魂」がない。だから「声」も聞こえない、と私は思う。魂とはなにかという問いに、簡単な答えはない。魂という抽象的で、明確な実体のないものを、私たちは直接捉えることができない。なんらかのインタフェースを経由することで、その思念に触れることができる。そのひとつが声である。

それは、喉から発せられる音波という意味以上の意味を持つ。でなければ、声を知らない相手の文章から「声」を感じ取ることはできない。ただの記号の羅列から、私たちは「声」を聴き取ることができる。それは、ただのタンパク質の塊に、「生」を見出すことができるのに似ている。

AIがこれから進化すれば、ますます人間らしくなるだろう。けれど、AIの書く文章から「声」が聞こえることは、きっとないと私は思う。「声」とは、すなわち「命」であり、生々しく、ゆらめいていて、あまりにも不確かなものである。AIには理解できないかもしれない。抽象的すぎるから、もっと具体的に説明しろ、とChatGPTは言うだろう。その視点がすでに間違っている。「声」は、サンプリングレートの数だけ並んだ数字の列ではない。人間が、DNAの塩基配列ではないのと同じ、と言えば伝わるだろうか。どうでしょうか、GPT-5くん。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。毎日21時頃にエッセィを更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink