5日ほど前に新居に引っ越し、それから5日連続でIKEAに通っている。近くにIKEAがあるせいで、ふらりと立ち寄りたくなってしまう。IKEAには商品を買わせる魔力がある。必ずしも必要でないものが、欲しくなってしまうのだ。
小説家の森博嗣先生は「必要なものではなく、欲しいものを買いなさい」とよく仰る。その意味が、IKEAに行くとよくわかる。人生において必要なものなど、実はほとんど存在しない。必要なものがあったとして、今までそれがなくても生活できていたわけで、つまり、別になくても良い。
IKEAは、欲しいものに出会える場所だ。ここが、ニトリとの大きな違いである。ニトリは、必要なもの、役に立つものを提供する。たしかに便利かもしれないけれど、胸が躍ることはない。どうしてもないと困るものを、仕方なく買うときにしか使わない。
欲しいものを見つけることは、創造的な営みだと思う。必要なものは、考えずとも自然に決まる。欲しいものは、欲しいと思わない限り存在しない。もちろん、IKEAも商売だから、欲しいと思わせるためにあの手この手を駆使している。だから、戦わなければならない。そう、IKEAは戦場なのだ。商業主義に塗れた戦場で、純然たる欲望を守り、己を貫くための戦い。IKEAで良い買い物をすることは、世界への勝利を意味する。という過激な思想を、端的に表現した映画がある。『ファイト・クラブ』という映画だ。知らない人はぜひ観てほしい。観れば、このエッセィの意味がわかると思うし、IKEAに行くのが何倍も楽しくなると思う。