自分の作品に誰かをお招きするとき、大事にしていることがある。それは、その人にしかできないことをやってもらうこと。
誰にでもできることは、できるだけ人に頼みたくない。誰にでもできることはAIにやってもらうほうが効率が良い。AIはそのようにできている。
作曲家には、その人にしか奏でられない旋律を奏でてほしい。役者には、その人にしかできない芝居をしてほしい。プロデューサーには、その人にしか見えないものを見出してほしい。
間違えないでもらいたいのは、その人「らしさ」を求めていないということ。その人らしさを求めてしまうと、それは過去のその人と同じパフォーマンスを求めることになってしまう。今のあなたと過去のあなたは違う。今のあなただからこそできることがあるはず。
自分にしかできないことなんてあるのだろうか、と思うかもしれない。自分で答えを見出すのは簡単ではない。
他者から見て初めてわかる強みがきっとある。強み、というのはやや恣意的かもしれない。独自性、唯一性、あなたにしかできないこと、あなただからこそできること。強くなくてもいい。武器じゃなくてもいい。ただ、あなたにしかできないというその一点にのみ価値があるような「何か」がきっとあるはず。具体的に言い表せるものかもしれないし、そうじゃないかもしれない。いや、具体的には言い表せないだろう。具体的に言い表せてしまったら、その条件を分解し、再構築することが他の人にも可能だからだ。やはり、もっと抽象的で、再現性のないもの。つまり、科学的でないもの。科学は万能ではない。論理的で合理的な充填構造の隙間に、不完全な人間の居場所がある。
あなたにしかできないこと、その自明な例のひとつは「あなたであること」だ。自分の人生を生きることは簡単なようで難しい。難しいからこその人生ともいえる。その軌跡は誰のものとも違う。あなたにしかできないことは、あなたが一番よく知っている。当たり前すぎて、誰かに言われなければなかなか気付かないのだ。