苦労話を美談にしたくない

池田大輝
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公開:2025/5/14

個人で創作をしていると大変なことがたくさんある。本当に、たくさん。苦労も多い。そういう苦労話もいつかは報われて笑い話になるとかなんとか。

苦労なんかできればしないほうが良い。無ければ無いに越したことはない。昔に比べて苦労は格段に減った。海外に行くのにわざわざ歩いて行く人はいない。技術が、人間の苦労をほとんど肩代わりしてきた。それは今後ますます加速する。エクセルにデータをひとつずつ入力するような苦労は消える。太平洋を手漕ぎボートで渡るのと同じくらい無意味な行為になる。もちろん、好きでやる分には構わないけれど。

苦労とは、その程度のことでしかない。置かれた環境や時代にほとんど依存する。今なら、職場でAIを使えるかどうかは大きなファクタになるだろう。AIを使わせてもらえない人は不必要な苦労を強いられている可能性が高い。職場がビルなのにエスカレータやエレベータがないのと一緒だ。「うちのビルにはエレベータがないから毎日階段を昇っているんだぞ、すごいだろう」と言っても笑われるだけだ。

苦労なんかするものじゃない。苦労から得られるものは、苦労以外からも得ることができる。それは、たとえば、想像力とか。毎日階段を昇り降りせずとも、毎日階段を昇り降りすることの大変さを想像することはできる。想像すれば、そのように不必要な苦労を背負わされている人のためになにができるのかを考えることができる。苦労したのなら、それは未来のために使えば良い。だから、苦労話はしたくない。そんな暇があったら、同じ苦労をする人を一人でも減らすためにできることをしたい。ましてや、次の世代に向けて「お前も苦労しろ」なんて言えるわけがない。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。エッセィを毎日更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink