ラブストーリーは必然だね

池田大輝
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公開:2025/3/12

この世界のいたるところに恋愛物語は存在している。フィクションにも、現実にも。誰しも一度くらいは誰かを好きになったことがあると思う。誰かに好かれたこともあるかもしれない。そのような経験が全くなかったとしても、人間は誰かの愛のもとに生まれてくる。たとえそれが悲劇であっても、およそ恋とは呼べないような醜い形をしていたとしても、やはり、愛なきところに命は生まれない。否、恋はむしろ、純然たるものではありえない。他人に侵入し、干渉し、そして、好きだったはずの相手のかたちを変えてしまう。不可逆性こそ恋愛の定義に相応しいかもしれない。

恋愛物語は遥か昔から語られてきた。同じような物語を皆、繰り返している。同時に、どの恋愛も同じものではありえない。それは同じ演劇が役者や演出家によって全く別物になるのと似ている。同じ座組であっても、再演すれば、毎回違うものが出来上がる。不可逆性。一回性。だから誰もが過ちを犯す。ドラマのようにうまくいく恋愛はない。現実を切り取っただけのドラマは面白くない。恋愛に必勝法はない。恋愛ドラマに必勝法がないのと同じように。

恋心は人を惑わす。まるで人を惑わせるために恋というものがあるかのようだ。恋を知らない人間はきっと迷うことはないだろう。人間は合理的に思考できる。合理的に考えれば、さっさと死ぬのが最もコスパが良い。生きることはほとんど無駄なことであり、恋することはもっと無駄なことだ。無駄を愛することを恋と呼ぶのも悪くはない。叶わぬ恋とわかっていても、諦めることはできない。そういう人のために恋愛物語があり、恋愛物語は人々を励ます。恋愛も、物語も、再生産される。

きっと、ほとんど同じようなものだ。だから、くっついて恋愛物語になる。恋愛物語が消えることはない。恋することと、語ることは似ている。違いがあるとすれば、誰に、という点くらいか。恋する相手に伝えたい物語には特別な名前がついている。ラブレターの書き方にルールはない。渡せなかったラブレターは、読者のいない小説のよう。切ないけれど、たしかに、その恋は、物語は、そこにあった。あの日、あの時、あの場所で君に会えなかったら、きっと書かれることのなかった手紙。たったひとりのあなたへ宛てた、たったひとつのラブストーリー。

@radish2951
ゲーム作家。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink