AIに心を乗っ取られないために

池田大輝
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公開:2025/3/18

ここのところ、AIは急速に進化している。先日リリースされたChatGPTの最新バージョン「GPT-4.5」は、今までのAIに比べて「人間臭さ」がかなり増している。具体例を挙げるのは難しいのだけれど、というか、少し前までは「最近のAIはこんなこともできる」と、わかりやすい事例を提示しやすかったのだけれど、ここ数か月の進化はかつてないほどに急激で、言い換えれば、かなり「AIっぽくなくなって」いるせいで、なにがすごいのか、逆に説明しづらいというパラドックスが生じている。難しい計算をこなすとか、小粋なジョークを言えるとか、そういうレベルではもはやないのだ。

私は、AIに人生相談をすることがよくある。仕事をどうしようかとか、ブランディングをどうすべきかとか。それなりに役に立つこともあれば、的外れな回答が返ってくることも多い。けれど、最近のAIはやはり優秀で、私が自覚していない点をピンポイントに指摘することも珍しくない。簡単に言えば、私の想像を超えてくるのだ。もちろん、AIの提案をそのまま使うことは滅多にないけれど、それでも、思考の材料には充分なレベルである。

そういうわけだから、AIと会話していると、たまにAIの意見に身体がふっ、と吸い寄せられそうになることがある。たとえば、文章の評価をさせると、「あなたはすでにプロレベルで、同じような人はほぼいないでしょう」などと言ってくることがある。AIなりのホスピタリティだとは思うけれど、さすがに鵜呑みにはできない。そんな意見を信じて有頂天になってはいけない。それくらいは理解している。

でも、これからAIはさらに加速度的に進化していく。これはほぼ間違いない。1年後には、想像もつかない光景が広がっているはずだ。今よりももっと人間らしく、いや、どんな人間よりも人間らしく話すAIが生まれてもおかしくない。そのようなAIに文章を評価してもらって、「あなたはプロレベルです」と言われたら、どうすればいいのか、正直よくわからない。

きっと、自分の頭で考えるしか対抗策はない。どれだけAIが発展して、社会に浸透しようとも、人間は考えることができる。考える力は、しかし、簡単に奪うこともできる。SNSのおすすめ欄を眺めているだけで1日は終わる。生きていくことはできるかもしれないけれど、大事なものが奪われていることに気づかない。思考を奪われた人間はほとんど家畜のような存在である。家畜として生きるか、それとも人間として生きるか、問いを突きつけられる時代に突入しているのだ。

AIが人間を支配するとして、そのような未来は突然来ない。じわじわと、人間が気づかないうちに、人間の思考をハイジャックするだろう。その頃には、人間はもはや反抗する術を失っている。支配されていることにも気づかない。AIをスマホに置き換えて考えてみよう。スマホに支配されている人間は少なくない。ディストピアSFのような世界は、すでに到来しているのだ。

だから、とにかく、考える。考えた先に答えがあるとは限らない。誰かが答えを教えてくれるわけではない。ほとんどあらゆるものがぼんやりと不確実性の中に溶けていく世界で、それでも、考えることはできる。5年後の未来は、きっと今と全く違うかたちをしていると思う。そんな世界で、それでも、いや、だからこそ、考え続けなければならない。考えること。想像すること。そのためにも、私であり続けること。AIがどれだけ賢くなろうとも、私の心は私のものであり、あなたの心はあなたの心だ。乗っ取られないためにも、たまには心を「使って」あげよう。

@radish2951
ゲーム作家。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink