海外に行ったことがない、と言うと驚かれる

池田大輝
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公開:2025/9/11

海外に行ったことがない。なぜか。それは、たんに行く機会がなかったからだ。

そもそも、それなりにお金がかかるだろう。どこに行くにしても、移動と宿泊を含めると10万円はするのではないか。近場でやっとこれくらいで、欧米ならこの数倍はかかるだろう。そのお金は、海外旅行よりも先にやりたいことに使ってきた。たとえば、カメラを買うとか、映画を撮るとか。

地域の差もあると思う。私は秋田出身だ。地方は、東京に比べて海外に行ったことのある人の割合が低い。大学に入るまで、海外に行くという発想がなかった。東京の人は、みんなお金持ちだなと思った記憶がある。

特に、私の通っていた大学は、裕福な家庭に生まれた人の割合が多いらしい。名門大学の学生ほど、親の平均年収が高いという統計があった。さもありなんという感じである。在学中は、そこまでギャップを感じなかったけれど、卒業して、大人になると、若い頃には見えなかったものがいろいろ見えてくる。

かつて、私が所属していた写真部にインカレで来ていた女の子に、海外に行ったことがないと伝えたところ、たいへん驚かれたことがある。そんなに驚く理由が当時はわからなかった。

こういう話をすると、台湾や香港なら気軽に行ける、と言われたりする。別に、台湾や香港に行きたいわけではない。海外に行きたいという気持ちは特にない。

北欧は、いつか行ってみたい。ノルウェーとか、スウェーデンとか、フィンランドとか。アイルランドやイギリスも気になる。ただ、このあたりに行くのは恐ろしくお金がかかるだろう。しばらく貯金しなければいけない。北欧に行きたい気持ちは、近場では代替できない。

どうも、私の願望は、お金と時間がかかるものばかりだ。映画を撮りたい。北欧に行きたい。これ以外にもたくさんある。お金と時間では解決できないものも多い。ここに書くわけにはいかない。とにかく、スケールが大きいのだ。

正確には、自分では、夢のスケールが大きいとは思わない。みんな、夢がこぢんまりしているな、と思うことはある。台湾に行く人は、本当に台湾に行きたいのだろうか? 手近だから、という理由で選んでいるのではないか? 同じ理由で、国内旅行でも、近場に行くことはあまりない。できるだけ遠くに行きたい。誰も行かないような場所にこそ行ってみたい。

ところで、アイルランドで思い出した。映画『インターステラー』に登場する、マン博士の星のロケ地はアイスランドである。あんな場所が地球上に存在するなんて、にわかには信じがたい。クリストファー・ノーラン監督の描くスケールは、私の思い描くそれよりも遥かに大きい。まだまだ、ヒヨっ子だなと思い知らされる。ノーラン監督から見れば、私も「こぢんまりしている」のだろう。日本映画は、どこか、こぢんまりしている。それがあまり好きになれなくて、海外の映画ばかり観ている。その意味では、私は海外志向の人間だと思う。

いつか海外に行ってみたい。簡単に行ける場所には興味がない。誰も行こうと思わない場所、行きたくても行けない場所に行きたい。カンヌのレッドカーペットでさえ狭すぎる。じゃあ、どこへ行こうか。目的地のない、旅の途中だ。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。毎日21時頃にエッセィを更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink