「キモい」は褒め言葉

池田大輝
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公開:2025/4/10

先日、「新海誠はキモい」というポストをたまたま見かけた。とあるCMが炎上していた最中の出来事である。私は新海誠監督のファンであるけれど、「キモい」と思ったことはあまりない。

どういうところが「キモい」と言われるのかは、大体予想がつく。『君の名は。』の口噛み酒とか、そのへんだろう。まあ、わからなくはない。これを「キモい」と思うのは、真っ当な感覚だと思う。

しかし、そんなことを言い出したら、世の中に存在するほとんどの創作物は、どこかしら「キモい」のではないか。性的な描写は、少なからず「キモい」だろう。ピュアな恋愛物語だって、ストーカーまがいの執着や迷惑行為が描かれることは珍しくない。色恋沙汰を抜きにしても、絆とか、友情とか、そういう、きわめて「美しい」ものさえも「キモい」と思う人は少なくないはずだ。

どんなものだって、それを美しいと思う人もいれば、キモいと思う人もいるのだろう。空や雲だって、キモくないとは言い切れない。キモいのは当たり前なのだ。私が新海誠監督をキモいと思わないのは、新海さんに似たキモさがあるからかもしれない。私自身は自分をあまりキモいとは思わないけれど、上記の理屈から、その感覚はほとんど無意味である。

ところで、新海さんに関して、かなり好きなエピソードがある。これは、一般的な感覚で言えばきわめてキモいことだと思うけれど、同じタイプのキモさを持つ私からすれば、畏敬の念すら抱かせるものだった。どんな内容か気になった人は、『ほしのこえ』のヒロインの名前と、『秒速5センチメートル』のヒロインの名前と、『ほしのこえ』のオリジナル版でヒロインの声を務めた声優の名前を調べてみよう。これがキモいかどうかはあなた次第であるけれど、私は、思わず拍手を送りたくなるくらいキモいと思った。心から尊敬しています。

@radish2951
ゲーム作家。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink