情報の価値

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2024年1月20日土曜日。東京の天気はどんよりと曇っている。しばらく前からこの土日は雪が降りそうと予報されていた。

「<関東と東海で無数の飛行機雲> 今日19日(金)は関東や東海エリアで無数の飛行機雲が見られています。これはゆっくりと天気が下り坂になるサインです。」

この投稿へのリプライがひどい。「ケムトレイルが散布されている」という内容で埋まっていた。飛行機で化学物質を散布している、といういわゆる陰謀論だ。主張の細かい内容は人によって差があるが、大雨を降らすとか、花粉症の原因とか、喉が痛くなったとか、人口削減計画の一環だとか。能登地震の時の人工地震陰謀論よりかなり数が多い印象だった。ケムトレイルという語を、飛行機雲の英訳(正しくはコントレイル)と勘違いしているのではないかと思う程たくさんあった。

昔に比べれば飛んでいる飛行機の数は大幅に増えているし、その航路もほとんど決まっている。大気中の水分量が増えれば雨が降りやすくなるし、飛行機雲も残りやすくなる。

同時期に、こんな投稿を見た。

「生後3ヶ月、体重が増えない、吐き戻し、背中スイッチ、ぐずりをまとめて解消するための赤ちゃんケアを行いました。 最初はぐずってなかなか触らせてくれませんでしたが、噴門から肝臓をリリースしようとしたときから深い眠りに入り、最後はベッドに下ろしても全く無反応な深い眠りに入っていました。 腹筋の裏側の癒着、大腰筋とS状結腸の癒着などをリリースすると,ご覧の通りだらりと脱力。こうなってからは、刺激してもぐっすりでした。」

コミュニティノートもついているが、その他にもこの投稿の内容を否定するリプライも多くぶら下がっている。私は医学についての知識はないので、何が正しい内容かは分からない。たぶん元の投稿が間違っていて、リプライの指摘の方が正しいのだろうなという印象は持っているが、確定的に正しいと断じることは難しいと思っている。

ここ最近の情報の扱いについて、「その内容が本当であるかどうか」が非常に重要になっている。真実性といっていいのか、正確性といっていいのか、どう表現したらいいのかわからない面もある。例えば上記の癒着リリースの件は、おそらく投稿者自身は真実で正確な情報だと思っているのだろうと思われる。ケムトレイルの件についても、投稿者自身は化学物質が散布されているのが真実だと思っている。自分の発信している情報が嘘だと認識した上で発信している人は、そんなに多くないのではないかと思っている。

このように怪しげな情報が拡散してしまう原因は、単純に誰しもが情報を発信できる立場を得ることができる時代だから、だと思う。AIによるフェイク情報の作成が一般的になったというのもあるかも知れないが、それはどちらかというと怪しげな情報そのものが増える原因であって、情報が拡散する原因ではないと思う。要するに、人は自分の信じたい情報を信じて拡散してしまう生き物なのだ。

以前はそれでも、情報に触れてから拡散されるまでの間にある程度のクールタイムやチェック機構があったのだろう。いや今ももちろんあるのだろうが、たぶん十分に機能していない。それはたとえるなら、戦場に初めて銃が登場したときのように、今までは殴り合いをするうちに消耗して妥協点を探る余裕があったのに、銃の導入によって妥協する前にどちらかを殲滅しきってしまうような、そんな状態ではないかと思う。

今はまだ平時だから、問題は顕在化していない。顕在化するのは、おそらくは南海トラフ大地震が発生したときになるだろう。能登地震ですら、情報の伝達はかなり混乱があったように見える。もしかしたら、通信インフラがダメージを受けることで逆に大規模な混乱は起きないかも知れないが、まあそれはそれで別の混乱を引き起こしそうな気はする。問題は、情報の発信者がそれを真実と思って、善意で拡散しようとしてしまうことなのだ。たぶん、政府はどこどこを見捨てようとしている、とか、どこどこの原子力発電所が危ないのを隠蔽している、とか、中国が沖縄に侵攻している、とか、そういった情報が出回るはずだ。

政府や報道機関も、必ずしも全て正確な真実を伝えているとは思わないけれども、かといって陰謀論まがいの噂話を根拠に行動するのもどうかと思ってしまう。緊急時の情報の選別をうまくできるか自信がないが、何かいい方策はないものだろうか。

@rainy
たぶん誰も見ていない