松野志保の『われらの狩りの掟』という歌集に「シュガーレス」という連作が掲載されている。これは若くして飛び降り自殺でこの世を去った編集者二階堂奥歯のWebで綴られた日記「六本脚の蝶」を引用して制作された連作だ。
この中に私の好きな短歌がある。
手放して風にまかせる最終稿わたしが死んで世界が残る
私は二階堂奥歯のように物語を守る者にはなれたなかった。ただ、私の最終稿はこの世界にきっと溢れている。
それは同人誌のことではなくて、仕事で書いてきたたくさんのプログラムコードだ。
私は仕事が好きではなかったけれど、私の書いたプログラムはこの世界にたくさん残っていて今も何かの役目を果たそうとしている。
それは世界を拡張するようなものではなくて、ただ世界をあるべきように記述した言語としてそこにある。
前職の経験でいろんな業種のコードを触ってきた。今の仕事やその前の仕事では、比較的いろんな人がもしかしたら使っているアプリケーションをつくっていた。だからもしかしたらあなたが私の描いたコードに触れているかもしれない。
あなたが何が生きている時に、私がこの世界を記述した言葉が動いている。
それはなんて素敵なことだろうか。
私の人生で偶然に、良きものの出会いがあったとすればプログラムコードを書くことを教えてくれた人たちだった。
本当にありがとうございます。私が死んでも多分この世界に私が描いた世界が残っています。