着ぐるみと虹ヶ咲のジレンマ

紺野瀬織
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公開:2025/8/15

子どものころから、お面を被った人が好きだった。一番古い記憶は、確か、母の田舎で見た御神楽だ。

お面の人は確かに誰かを演じているのだが、そのお面の下の表情は見えない。

その「見えない」ということに、私はなぜか胸が高鳴っていたように思う。

子どものころは、その高鳴りだけで十分だったし、その高鳴りを鎮めることだけでも精一杯だった。

けれども、大人になってしばらく経ったある日、偶然のきっかけが火花のように散った。

何かを検索していて、たまたま造型工房シグマのホームページを見つけたのだが、「こんなのあるの?」というのが最初の印象だった。ところが、子どものころの御神楽を見たときの高鳴りを徐々に思い出してから、「これだ!」と直感した。

それから、私は着ぐるみコスプレを始めた。

もともと私には、普通のコスプレをするという発想がなかった。キャラクターを忠実に再現することにも、あまり興味がなかったのだ。

さて、着ぐるみについて調べていくうちに、「版権面」と「汎用面」という区別があることを知った。そのとき頭に浮かんだのは、着ぐるみという決して安くないものを既存キャラクター仕様で作って遊んだとしても、やがてそのキャラに飽きてしまうのではないか、という不安だった。

そこで私は、業者が用意した汎用面に、自分で考えたキャラクターを当てはめていくという遊び方を試した。

けれども、やがて気づいた。キャラクターを作ることは、頭と時間を想像以上に使う。しかも、自分の力ではなかなか満足のいくところまで作り上げられない。限界があるのだと痛感した。

汎用面を上手にキャラ化できる人もいるが、私には難しかった。

そこで私は、心から好きになれるキャラクターを探すことにした。

私は背が高く痩せ型なのだが、胸がほとんどない。正直なところ、胸は少し欲しいと思っていたし、汎用面のときには胸を好きなだけ盛れたので、胸のあるキャラクターのほうがとっつきやすいとも感じていた。

そういうキャラクターが登場するコンテンツを探し、「これはハマれそうだ」と思えたのが、朝香果林と『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』だった。

アクアシティお台場のコスプレイベントに参加した、虹ヶ咲学園アニメ版夏服の朝香果林の着ぐるみ

胸のあるキャラクターを演じるのは、自分で言うのもなんだが、とても楽しい。普段の生活では味わえない、「胸があるせいで足元が見えない」という体験までできる。

キャラクター的にも自分の身体を見せつけていくタイプなので、着ぐるみのときはそういうアピールもする。すると、知り合いの女性が「盛っている」と知ると、冗談半分で胸をわしわししてくることもある。もちろん、彼女は現実では絶対にそんなことをしない、常識的な大人だ。私もコミカルに嫌がってみせるのだが、こうしたやりとりこそ、「着ぐるみ」という虚構だからこそできることだ。お互い、現実ではできないことを、フィクションの中で安全に楽しんでいる。

もし私が普通のコスプレをしていたなら、こういう楽しみ方は思いつかなかったかもしれない。ちなみに、男性のほうはこういう場面では少し遠慮してしまう印象がある。

話がそれたが、そんな経緯で私は朝香果林と虹ヶ咲が好きになり、朝香果林の着ぐるみを演じるようになり、今に至る。

キャラクターとコンテンツを知るうちに、舞台であるお台場にも通うようになり、理解が深まり、着ぐるみのモチベーションも上がる——その繰り返しだった。そのため、他のコンテンツにはあまり惹かれるほどの余裕がなくなった。

そして、朝香果林特有の事情として、胸元のほくろがある。

着ぐるみでは、演者の素肌を隠して首から下の生々しさを抑えるために、「肌タイツ」という全身タイツを着用する。

一方で、朝香果林は胸元に三連のほくろがあり、それが特徴になっている。普通のコスプレならメイクで再現できるが、着ぐるみではそうはいかない。

そのため、肌タイツにほくろを描き込むことになる。こうなると、もう他のキャラクターは着られない。いや、着られなくはないのだが、胸元を見せない衣装に限られ、かなり制限がかかる。結果として、私の趣味は「着ぐるみ」ではなく「朝香果林の着ぐるみ」になってしまった。

最初に心配していた「既存キャラに飽きてしまう」ということは、結局起こらなかった。ただ、虹ヶ咲ファンとの交流が増えるにつれ、かえって着ぐるみを着づらくなるという予想外の状況も出てきた。

考えてみれば当然だ。着ぐるみは普通のコスプレのように気軽にできないし、安全面にも細心の注意が必要だ。それに、虹ヶ咲のファンはあくまでコンテンツそのもので盛り上がりたいのであって、着ぐるみを見たいわけではない。もちろん、見たいという人が全くいないわけではないが、それを口にしづらい雰囲気もある。

さらに、「着たい人」と「見たい人」がうまく出会えても、その場を作るのは簡単ではない。

正直なところ、私はもっと朝香果林を着たい。けれども、この先どうしていくか——これが、「さて、この先、どうしようか」と悩んでいる理由のひとつだ。

@rdh27785
着ぐるみで朝香果林のコスプレをしています。