囀る

りえ
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公開:2024/6/20

少しの間ベッドの上で過ごさなければならなくなった。1番具合が悪かったときは身体が痛くて眠ることすらできなかったので、ただただ転がっていた。そうなると、熱に浮かされながら思考ばかりがうねうねぐにぐに動き回る。

どこからか小鳥の囀りが聞こえてくる。部屋の窓から外を見ることはできないけれど、声を聞けるだけでも嬉しい。辛い頭痛からも少し気が紛れる。そういえば、『囀る』という文字を初めてみたとき、音の印象よりも厳ついと思ったな。武器みたい。絶対に石か金属製だ。なんでも、轉は転がるの旧字らしい。小鳥の口から出る声はいつまでも止まない。ピーチクパーチク鳴き続ける。あまり続くとちょっとうるさい。でも鳴き続ける。止まることもなくいつまでもどこまでも転がるように。そしてそれが転じて、やかましく、早口で、捲し立てて、喋り続ける、なんて意味もあるらしい。口から出た言葉が転がって転がって、転がり続ける。誰も聞いていない。うるさい。でも止まらない。少し身に覚えがある。

思考がぐるぐると巡り、あちらこちらをフラフラして、ちょっと何か良いことを思いついたような気がして、それを人に話したくなる。ピーチクパーチク早口で話して、話して、転がって、転がって、結局何にも伝わらずただ困惑だけさせてしまう。「で?」と言われて終わるのだ。そうだねわたしもそう思う。わたしは何を伝えたかったのだろう。思っていたはずのことを口に出してみると、それがどんな形をしていたのか自分でもわからなくなってしまうのだ。

世界には興味深いことがたくさんあり、それに出会ってしまったとき、どうして言葉にしないでいられるのか。そんなことしたって仕方がないよ、そもそも上手く伝えられないし、聞かされる方は迷惑だ。分かってはいるのだけれど、うるさいと言われようと、意味が分からないと言われようと、思考も言葉も転がり続けてしまう。もっと落ち着けたらいいのにね、仕様もないことばっかり喋ってさ、そんなこと誰も興味ないよ。そうね、そうだ、知ってるよ、でもどうすれば良いのだ、転がってしまうものは止められないじゃないか。だって稀に、本当に稀に、思考と言葉が一致して、しかもそれが届いたと思えたときに、どうしようもなく、嬉しくなってしまうのだ。その喜びを知ってしまったら、悲しいことばかりの中でそんな瞬間を知ってしまったら、どうして、嗚呼、熱があがってきたようだ。