好きな役者がいる。なんで好きなのかを語ろうかと思ったけれど、やめた。考えたってわからない、好きだから好きなのだ。でも楽しいのはさらにその先、"好き"はわたしを未知の場所へと連れて行ってくれる。
彼が出演する舞台は今年全部で3つある。1つ目は若手お笑い芸人の役だった。東京ドームのすぐ近くにあるIMM(生きてるだけで/丸/もうけ)シアターで、彼が披露する漫才に笑った。そういえば、お笑いを生で観たことはなかったな。これは演技ではあるけれど、隣の席の知らない人と一緒にお腹を抱えて笑うのは、悪くない気分である。
もう1つは浅草九劇という全部で100席もない小劇場で、映画プロデューサーを演じていた。舞台と客席の距離が近く、肩を寄せ合うように座る観客の感情までもが皆の間で共有されるような、なんとも濃密な体験だった。
そしてこの後年末には、東京国際フォーラム ホールCでベートーヴェンの第九を主題とした作品が待っている。年末に第九なんて、最高すぎる。なんでも、舞台の上に2台のピアノが置かれ、さらにコーラスの方が20人もいるらしい。まったく想像がつかなくて、今からワクワクし過ぎている。
彼が出たから初めて2.5次元ミュージカルを観に行ったし、彼が主演だったから初めてBLドラマに挑戦した。彼がいたからクルージング上のイベントにだってめかしこんで参加した。どこもここも、わたしの人生で経験するなんて考えたこともなかった場所だ。彼がいたから、わたしはそこに行けたのである。何かを好きになるということは、それに関連する別の何かに触れるチャンスを得るということだ。世の中に溢れるあらゆる"楽しい"ことは気が付くことさえできぬままわたしの側から去っていく。でも、もしもそこに好きなひとがいてくれたのなら、きっとわたしの手を引いて、連れて行ってくれるのだ。
彼がSNSで告知をした。なんと『相棒』にゲスト出演するらしい。そうと知ればもちろん観る。『相棒』がいつどのチャンネルで放送しているのかも知らないくせに、ちゃんと調べて観てしまうのである。