七夕の夜に歩きたかった

りえ
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七夕の夜、地元では子どもたちの歌声が響いていた。

浴衣を着た子どもたちがカゴを持って町内を練り歩き、民家の前で歌を歌う。"ろうそくもらい"という風習である。地域によって少し違うようだが、わたしの記憶だとこんな歌だ。

『ろうそく出せ出せよ 出さなきゃ引っ掻くぞ おまけにかっちゃくぞ』

引っ掻かれたくもかっちゃかれたくもない住民は、ろうそく、ではなくお菓子を手渡し、子どもたちはたっぷりのお菓子を抱えて家に帰る。まるでハロウィンだ。今もやっているのかは知らないが、私が小さい頃はごくごく一般的な行事だった。

なんて、昔の自分の記憶のように書いているが、実際のところわたしは貰う方、あげる方、どちらの形でも参加したことがない。強請ってまわるような行為を親が嫌っていたからだ。歌声が町内に響く中、毎年逃げるように家族で家を離れた。流石に家に子どもがきたら追い返すわけにもいかないので、そもそも在宅しないことにしていたのだ。

正直なことを言うと、わたしも"ろうそくもらい"に参加してお菓子を貰ってみたかった。だって普段は家にいる時間なのに、その日だけは友だちと浴衣を着て歩くなんてとても楽しそうではないか。参加したいって、言ってみたらよかったのかななんて今更すぎることを考えながら、わたしが歌ったことのないあの歌を無意識に口ずさんでしまう。本当は参加してみたかったあの頃の少し寂しい気持ちが、また今年も顔を出している。