早川書房新書版「哀れなるものたち」読んだよメモ

rikunokotooo
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映画だけ見て原作読んでない(読む予定がある)人は原作読んでからこの記事読んでください。おねがい!

早川書房の新書版で読んだので手書き文字のところや挿絵がめちゃくちゃ挟まれていたのだがこれ文庫版だとどうなってるんだろうね。市場に新書版は中々出てないっぽいですが私は市の図書館で借りれたのでご参考まで。

急いで一周読んだだけだからマジでメモだし読み違えもあるかも。ここまでずっしりしたのをほんと久しぶりに読んだし文学研究について真似事でさえもウン年ぶりなので……

映画観てから原作に興味を持って原作読んだんですけど

かなり違う!!というか全然違うなこれ

そもそも原作の舞台はグラスゴー(スコットランド)だしかなり「キリスト教的考え(作中の時世のメジャー?」や国際情勢の話がたくさん出てくる。

どうしても自分のような世界史で少しやったばかりの人間は全部「イギリス」とくくりがちだけどスコットランド・アイルランドとロンドンとかのいわゆる「イギリス」は全然違うんだよな。また、「女性」の性欲が今よりもずっとタブー視されていたのだろうなという描写が多々あった。それこそ「子を産む機械」というか。

そして何よりも「哀れなるものたち」というテクストの構造が、映画「哀れなるものたち」とまったく違う意味付けを突き付けてくる。

原作「哀れなるものたち」はざっくり以下の構成

① 編者(②③を発見し、「哀れなるものたち」というテクストに構成した)の前書き

②マッキャンドレスの手記(映画になってるのはここ)

③ベラの手紙

④編者による②③内についての注釈

そもそも扉のタイトルも「哀れなるものたち」の下に「スコットランドの一公衆衛生官 医学博士アーチボルド・マッキャンドレスの若き日を彩るいくつかの挿話」(アラスター・グレイ編)となっている。この話には「語り手」が三人いることになる。

さらに言うなら②内にベラからゴッドとマッキャンドレスに送った手紙が引用されている。

②については、舞台がロンドンに変更されてたり細かい筋やベラの前夫の将軍の結末などは違うが、大筋のストーリーラインは同じである。

問題なのは③でベラが、「夫マッキャンドレスが書いた②の内容はまったくもって彼の創作である」と述べている点だ。ベラの言う「実際のマッキャンドレス」はダッドとも自分とも友人以上のものではなかった(対等な関係ではなかった)し、そもそも自分(ベラ)の経歴も②で書かれているようなものではないということだ。

②将軍の妻であるヴィクトリアが自殺→身ごもっていた赤子の脳を移植

③将軍の妻であるヴィクトリアは将軍の元から出奔してダッドの元に身を寄せる

違いすぎ また、②内で語られる「ベラ」はダッドへの感情は性欲を伴わないと語られているが③では肉欲を伴うと語られている。「ヴィクトリアが将軍の元から去」り「ダッドの元に身を寄せ」最終的に「マッキャンドレスと婚姻した」という筋は共通しているというか登場人物は同じなんだけど全然違う筋立てになっている。

だから映画というか②だけ見ると赤ん坊から「成長」したベラが主体を得ていくような印象を受けるが、③の存在によりその「主体を得ていく」様子もまた「男」によって都合よく語られたものでは?と突き付けられる。

ただ、②③のどっちが作品世界において「本当に怒ったことか」は判別のしようがない。ベラが③の中で指摘した「間違い」も「将軍が足を撃たれた際の体の部位の描写が誤っている」とかだし。まぁ大筋自体が③ベラにとって全然違うんだけど。

そしてここで話をややこしくしてるのが「編者」であり「編者」がつけた注釈である。「編者」は上記について「マッキャンドレスはベラと合作したくてわざとその場所を間違えたのでは(医療の知識があるベラがその誤りに気が付かないはずがないから)」という意味の解釈をつけている。

注釈の一番最後は②③で起こった物事のあとベラがどんな人生を辿ったかというのを「外部資料からの引用」を交えながら語る。それによるとベラの思想は「社会※戦争中」に受け入れられず、最終的に孤独な老婦人として死んだらしい。

「編者」は最初にベラの手紙のことを「自分の人生の出発点についての真相を隠そうとする精神障害の女性の書いた手紙である(そのまま抜粋」と語る。が、その前に「本文と接する前に手紙読むと読者に偏見を抱かせる」と言ってるから②のほうを真実だと語っている。

テクストとしての「哀れなるものたち」は、「社会的(人種だったり階級だったり)な地位」を内面化する男たちが多く登場する。しかしベラもまたマッキャンドレスや「編者」、また「編者」によって説明された社会の評判 によって都合よく※本当はここを掘り下げたほうがよい「語られた」存在でしかない。そう思うと②だけ映画化してるのめちゃくちゃ性格が悪いな 結局我々もまた「ベラ・バグスター」を「解釈」せざるをえないし、しかもそれは②の視点を踏まえているため。

それはそれとして訳者が「"poor"という語が出すぎて訳し分けとか言葉遊び部分の訳が難儀すぎて胃炎になった」と書いていてお疲れ様です……に。

本記事の引用や底本はすべて2008/1に発行された早川書房「哀れなるものたち(著アラスター・グレイ訳高橋和久)」です。