目を離した隙に、テーブルに置いた焼き鳥を「猫に食べられちゃう」と思ったけど、ここに猫はもういないんだった。
暗い部屋に置いてある荷物が丸まった猫に見えて、踏まないように避けながら、黒猫はもういないんだと気付く。
日用品を買う時、いつものペット用品をもう買わなくていいんだと思い出して、猫の不在を感じる。
いつも思い浮かべるのは、亡くなった直後の顔。
今はまだ時間が経っていないから、細かく鮮明に思い出してしまう。元気な時の姿を思い浮かべてあげたい気もするし、今はまだ仕方ない気もする。時間が経つと思い出せなくなるから、今の悲しみには今向き合うしかない。
1ヶ月経ってだいぶ落ち着いてきた。
まだ猫の様子を伺おうとすることはある。テーブルに鶏肉を置きっ放しにすると、食べられないか気になってしまう。
買い物の時は猫用品を思い出さなくなった。
思い浮かべる姿も、亡くなった瞬間より他のシーンが増えてきた。
こうやって時間と共に忘れていくのが、生きている人間の凄いところだと思う。少しずつ入れ替わっていく。ずっと同じ悲しみを忘れられずにいたら生きていけない。
人を見て、とにかくまずは生きてさえいればいいと思うのは、時間が経つと少しずつ色んなことが変わるのを知っているから。時間では解決しないこともあるけれど、それは時間が経ってみないとわからないこと。