夢でさえ、夢の中でさえ

risaki
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有名な政党のトップがその地位を引き継ぐセレモニー。

学生である僕たちは社会見学かなにかの一環で、あまりにも身分にそぐわないその式典に参加していた。学ランを着ていたことと、邪気のない笑顔をふるまいているのに「何か裏がありそうだ」と思わせてくる同級生がいたことから、おそらく僕が中学生だった時の夢だと思う。

その日は随分と晴れた日で、天地がひっくり返ったような青い空にわたがしが浮かんでいた。

でも綺麗だとかわたがしみたいだとか思ってはいなかった。僕はソワソワしており、常に期待感にあちこちの皮膚を引っ張られているような感覚でいた。

というのも、そのセレモニーにはある噂が流れていたからだ。

とても過激な噂の内容は、政党のトップが後任者を宣誓するカウントダウン終了後、ひょっとしたら東京ドームなんかよりも大きな舞台がまるごと爆破されてしまうというもの。物騒だし小気味の良い話でないことは確かだった。

そして後任者に選ばれるのは、確か僕たちの学校の先生だったんだと思う。みんなに愛されるおじちゃん先生だった気がする。

まもなく式典は始まった。

例によって退屈で、他でもなく彼自身のために行われるロングロングスピーチに眠気を刺激され、いっそもうここでくたばってやろうかなとか思いつつ、それでもなんとか両足を地につけようと努めていた。

「それでは次期党首の発表に移ります」

会場のボルテージはMAXだった。そうだ、きっと先生が選ばれるに違いない。

カウントダウンが始まる。沸騰したように僕らの熱も高まって行く。

「次期党首は――」

僕たちの知っている先生の名前が高らかに宣言された。

その瞬間だった。

大きな舞台が爆炎をあげたのだ。赤と黄色の黄金比が視界を席巻するべく舞い上がる。いつか動画で見た太平洋での水爆実験のごとく、潮が吹きあがるように炎と黒煙があがった。

焦げ臭いにおいが鼻をかすめる。ピリピリとした熱波が肌をつつく。

喉の奥が乾いていた。ここにいる誰もがそうだった。

熱狂から一転。快晴の心たちはわずかな静寂という間をおいて、あっけなくも地の底を這う絶望へと姿を変えてしまったのだ。

僕たちは臆面もせず泣いた。ただひたすら泣いた。舞台にあがる生徒がチラホラと現れた。僕もそれに続いた。

都合良く置いてあった缶ビールを手に取り、「やりきれない」といった様子でそれを飲み干す生徒たちがいた。中学生が堂々と飲酒なんかするな、というような倫理を持ち出す輩はひとりもいなかった。

片手にお酒をぶら下げた僕は舞台にあがる階段を踏みしめながら、爆破を決行した噂の国を心底憎んだ。こうやって恨みが生まれ、憎しみが連鎖することくらい誰にだってわかるだろう。なのになぜそれを平然と行う?

なぜ憎しみを嬉々として掘り起こす?

そう自分に問うていた。

……しかし、そんな問いなど二秒もすれば忘れていた。

周囲の生徒たちが次々とプルタブを押し開けていく中、僕は右手に持った缶ビールをどうしてもあけられなかった。

いや、あけたくなかった。

倫理が理由ではない。なんだか祝賀みたいでいやだ、という訳でもない。

ただただ渦巻いていたのは違和感。

そう、

僕は『知っている先生が死んだ』から泣いたのではない。

『簡単に連鎖する憎しみを掘り起こす浅慮』に憐れみを抱いていたのだ。

もしくは、簡単に連鎖してしまう憎しみそのものを不憫に思っていた。さらにはそれに踊らされる我々という存在にも。

「あ――」

だからなのだ。

僕は式典が始まる前、ソワソワしていた。

それは知っている先生が党首に選ばれるかもしれないから、

ではなく。

あの舞台でこれから起こるであろう未来を恐ろしく思い、また同時に期待もしていたのだ。

自分の、他人の、もしくは全く関係のない赤の他人までもを含めて、

僕は人類に対して見え透いた不幸を求めていた。

だからソワソワ……正確に言えばワクワクしていたんだと思う。

これから人が大勢死ぬかもしれないのに。

爛れた傷を背負いながら生きていかねばならなくなるのに。

僕はそれを望んでいた。

そういう夢を見た。

夢の中でさえ、僕は

@risaki
空っぽないまを騙し騙し生きていくのだとおもう