「昔はこんなに暑くなかったよね」「30度超えたら暑いって感じだったよね」なんて話を身の回りの会話で聞くことがある。
私の周囲の人たちが(私も含めて)30代であり、自分が小中学生だったころを想定しているので、だいたい90年代〜00年代あたりを想定していると思われる。
みんなもっともらしく話しているけど、正直私は気温の具体的な数値は覚えていないし、暑さも主観なので今の感覚と比較ができないなと思っていて、この「今は昔より暑い説」は肯定も否定もできないでいた。
たしかにニュースなんかでは「観測史上最高気温を更新」とか言ってる気がするし、昔よりも水分を取れとかエアコンをつけろと言っている。しかしそれをもって本当に「今は昔より暑い」と言い切れるのか?
これはちゃんとデータを元に判断すべきだと思い、気象庁が公開しているデータを分析し考察してみることにした。
全国の最高気温の記録
まずは最高気温の記録を見てみる。テレビでも最高記録更新と何度も見る気がするので、本当に最近は記録的な高温が多いのかを確かめてみる。気象庁が歴代全国ランキングという形でまとめてくれている。
「最高気温の高い方から」を見ると、上位24観測所ですべて40度超えである。それぞれを記録した年と、その年に更新された数は以下の通り。
1933年:1
1994年:2
1998年:1
2007年:3
2013年:3
2018年:6
2019年:3
2020年:5
明らかに2007年以降が多い。2024年現在で最高気温の記録トップ24のうち20件は2007年以降に更新されたものである。
ただこれだけをもって「最近の方が暑い」という結論を出すのは早計である。「最近は暑いね〜」といのは「全国のどこかで歴代の最高気温が更新されたね〜」という話ではないはずである。もう少し別の観点からも分析してみたい。
ある地点の年ごとの最高気温
もしかしたら「昔はこんなに暑い日はなかった」と言う人がいるかもしれない。つまり「最高気温が上がっている」という主張である。そこで年ごとの最高気温の推移も見てみる。
同じく気象庁のホームページの「過去の気象データ・ダウンロード」のデータを用いて、ある地点において最高気温が一定以上だった日の数を年ごとに出してみる。
今回は以下の条件のデータを使用した。
地点:東京都の練馬
期間:1990年から2023年までの6月1日から9月30日
項目:日ごとの最高気温
ここから年ごとの最高気温をプロットしたのが以下である。
2005年以前で見ると
1993年の33.7度
1999年の35.3度
2003年の36度
は目立って低いが、一方で
1997年の39.1度
2004年の39.5度
などもあり、明確に最高気温が上がっているとは言えなさそうである。
強いて言えば1990年から2010年までは37度を下回る年は8回あったが、2010年以降は一度も無い。「最近は毎年暑いなあ」という感覚は正しいかもしれない(正確には1年の中で最も暑かった日の気温の話でしかないが)。
最高気温は毎年の差が激しいので、もう少し傾向の違いを見るために過去10年間の中央値をとってみる(2000年以降)。
こう見るとあまり変わっていなさそうである。
最高気温が上がっているという意見は、少なくとも練馬の観測所の値においては間違っていると思われる。もしかしたら、全国での最高気温の記録更新ニュースを見てそういう印象を持ってしまっているのかもしれない。
ある地点における年ごとの「気温の高い日」の数
人が「最近の夏は暑い」と思うかどうかというのは「最高気温が高い日」がどれくらい多いか、ということと相関があるのではないかと仮定する。
さきほどと同じ練馬のデータから、年ごとに「30度以上の日数」と「35度以上の日数」を集計した。結果をグラフ化したのが以下である。
なんとなく、左が低くて右が高いように見えなくもない。ちょっと差が激しいのでぱっと見ただけでは判断しづらい。
ちなみに、ガクッと下がっている1993年は「平成の米騒動」と呼ばれる出来事があったほどの冷夏である。
一方、2010年は夏の日本の平均気温の平年差が過去113年で最高であった年である(ちなみにこれは2023年にさらに更新されている)。
そう聞くと、やはり昔(自分たちが子供のころ)より暑くなっていると思えるかもしれない。しかし、1993年や2010年が特別な異常値であり、それを除くと全く変化が無い可能性もある。
そこでこちらも年ごとの差をある程度吸収するために過去10年間の中央値を取ってみる。
右肩上がりかと言われるとそうではありそうだが、例えば30度以上の日(青線)については2005年以降で見るとむしろ最近は下がっている。2005年の値は1996年〜2005年の中央値であり、まさに現在34歳の1990年生まれの人たちが小中学生時代を過ごした時期である。
一方、35度以上の日(赤線)については、2005年(1996年〜2005年)から比較しても最近のほうが高くなっている。2005年は8日間、2020年は17.5日間であり、たしかにこれは「暑い日が多い」と感じそうだ。
まとめ
以上から、2024年現在で30代の人たちにとっての子供のころから現代を比較すると以下が言える。
日本の歴代最高気温トップ24のうち20件は最近(2007年以降)更新された。
最高気温が37度を超えない年が2010年以前は4割くらいあったが、2010年以降は無い。
年ごとの最高気温は特に上がっていない。
35度を超える日の数は増えている。
30度を超える日の数はあまり変わっていない。
ここから「最近は昔より暑いよね〜」という感覚をもう少し具体的にするならば「最近って『(年に10日程度ある35度を超えるような)すごく暑い日』が(もちろん昔もたびたびあったけど)昔より増えてるよね〜」とか「昔はここまで(37度を超えるような)暑い日がある年は2年に1回くらいだったけど今は毎年だよね〜」いうのが正しい。
一方で、外に出て「昔はこんなに暑くなかったよな〜」と言うのはちょっと怪しい。37度を超える日は昔からだいたい毎年あった。38度だったとしても、だいたい1~2年に1回はある。1年の中での発生頻度は違うものの、それくらい高い気温は以前からあった。
ちなみに私はデータ分析の専門家ではないので、今回の分析方法や考察がまずい可能性もある。何かあればプロフィール欄のBlueskyのリンクからコメントいただけると嬉しい。
おまけ
今回は30代の人にとっての子供時代(1990年〜2010年あたり)を見てみたが、さらに遡って1950年からの推移を見てみるとより傾向が顕著に見られる。
(練馬は古いデータが無かったため、以下は東京のデータである。観測所が違うので今までのデータとの比較はできないのでその点も注意。)
70年代、80年代は最高気温も全体的に低い。37度や38度を超える年の数を見ると1990年以前と以後ではっきりと違う。また35度を超える日の数も明らかに右肩上がりである(1990年以前は年に0日の年も多い)。
この時代に小中学生だった40代、50代の人はより「子供のころはこんなに暑い日は無かった(少なかった)」と感じるだろうし、その感覚はたしかに正しそうである。