もう10年ほども前になろうか、
Sさんが「読んでみてください」と
貸してくださった、フィリップ・クローデルの
「リンさんの小さな子」という本。
戦火から逃れ、海を越えて異国へ渡った
リンさんと、その「小さな子」、サン・ディウの物語。
かなしくて、でもやさしくて、
クライマックスは本当にドキドキして、
忘れられない一冊になった。
メルモの服を縫いながら、ふと思い出し
サン・ディウとメルモの姿が重なってしまった。
メルモも、地震で永らく過ごした海辺の町を離れて、
県境を越えて見知らぬ街で暮らしているのだ。
そう思うといてもたってもいられなくて、
古本で取り寄せてしまった。
これまたほどよくくたびれた状態で、いとおしい。
わたしにとってのメルモは
前述のとおり、もはや単なるおもちゃではないのだけど
それはこの作品を読んでいたからかもしれない、とも思った。
Sさんは、わたしがいずれ
メルモを迎えると知って、この本を読んでみて、と
言ったのかしら、とさえ思った。
そんなことはきっとないのだろうけど。
いや、でもあるのかな。
いずれにせよ、ありがとうございます。
おかげで、メルモとの
穏やかな時間を過ごせているのだから。
メルモは、わたしにとっての
サン・ディウ、たいせつな、小さな子。
きっと、そう。