私はTopping A70Pro + SMSL D400EXの組み合わせで音楽を楽しんでいましたが、A70Proが壊れ、LADDER Bachに買い換えました。LADDER Bachを使い始めたことで、音はよりフォーカスされ、レイヤリングされ、サウンドステージも広大になりました。
D400EXにこれだけの実力が隠されていたことを明らかにしたことには満足しています。実際買い換えた際には非常に多くの楽曲を楽しみました。しかし、時間が経つとA70Proの時のようにリラックスしてより長時間音楽に浸ることが出来ていないことに気がつきました。
私は真剣に音楽に向き合うという聴き方もしますが、専用のリスニングルームがあるわけでもなく、リビングでもなく自室のデスクトップ環境と統合しているため、BGMとして音楽を流す時間の方が圧倒的に多いのです。そのため、A70Proのライン出力のような、暖かく、緩さのある音の方が全体的には満足していた可能性が高いことを認めなければなりません。
とはいえ、LADDER Bachで手に入れたフォーカス、レイヤリング、サウンドステージは犠牲にしたくないため、A70Proに戻るという選択肢は私の中に存在しません。過去のセットアップの経験から、D400EXが現状の課題に繋がっている可能性が高いと考えました。D400EXには高域に明るさがあり、低域の表現は質は高いが駆動力が不足している、という視点です。
このD400EXの欠点は日本の識者からも指摘されている点であり、またD400EXは優れたDACであるものの、海外レビュアーからの評価も高いには高いが、総じてあくまでその価格帯の中で優れたDACのひとつに過ぎないといった評価が多数を占めています。
比較と検討①Ladder・Denafrips・Musician Audio
D400EXに課題があるとして、では次にどんなDACを選べば良いのでしょうか。最初に検討したのはR2R DACです。R2R DACはその特性上、嫌な音を出さず、より暖かい音になる傾向があります。そこでLADDER Bachを買うきっかけとなったiiWiで評判の良かった同ブランドのLADDER Schumannを比較検討の軸に置くことにしました。
とはいえLADDER Schumannは20万円するため、R2Rが自分の好みに合っているのかどうかを知ることのみにフォーカスし、Musician Audio Dracoを買うことも検討しました。しかし、D400EXも完璧では無いにせよ優秀なDACであり、また円安であること考えると価格的にはダウングレードになる買い物をして幸せになれるのか?と考え直しました。
一旦3兄弟のブランドの中から買うならどれにするかを決めました。Musician Audio Pegasus II(164,000円)です。いろいろ理由はありますが、一番はコストパフォーマンスです。海外レビュアーの言葉を信じれば、Denafrips Ares 15thやLADDER Schumannより低価格でありながら、ほぼ同等の性能が得られる可能性が高いためです。また、iiWiの動画の中でMusician Audio Pegasusの話をしているときの表情が非常に良かったこともこの決定を後押ししています。
というわけで、比較と検討①ではMusician Audio Pegasus IIを選びました。
比較と検討②Holo Audio Cyan2・Topping Centaurus
しかし、ここでHolo Audio Cyan2の存在を知り、その実装の美しさを見てしまいました。
Holo Audio Cyan2はHolo AudioのDACの中では最廉価モデルですが、Spring3のDAC部はそのまま移植されており、主に機能を削るという方法で小型化と低価格化を実現したモデルです。また、インプットセレクトの考え方から、主にデスクトップユースを想定していると考えます。
Holo AudioはR2Rの設計で印象的な線形補償技術を採用しており、この結果R2R DACで重要な抵抗誤差は0.00005%となっています。Musician Audio Pegasus IIの抵抗誤差は0.00500%なので1/100の精度を実現していることになります。
海外レビュアーの反応を見ても、R2Rの良さを備えつつ、よりΔΣDACの良さにも近づいている様子があり、広いジャンルの音楽を聴く身としてはこうしたナチュラルでニュートラルなDACのほうが自分の好みに合うのではと考えるようになりました。また、保証体制なども考えると日本代理店(iCAT)があるHolo Audioを選択した方がより安全です。
そんなタイミングで現れたのがHolo Audio Cyan2とDAC部を共通とするTopping Centaurusです。価格は15万円で、もしCyan2と同じ性能が手に入るならバーゲンプライスです。とはいえ、現実はそう甘くありません。
Holo Audio Cyan2もTopping Centaurusも空気録音のYoutube動画が少なく、少なくとも同一環境での比較はできません。そのため、Holo Audio Spring3とTopping Centaurusの空気録音同士を比較することにしました。もちろん同一環境ではないため、その環境要因を可能な限り取り除くために他の動画も多数視聴した上で比較しましたが、自分の感性・感覚を信じればCentaurusはCyan2に匹敵することが出来ていません。恐らく電源と実装の違いからこの差が生まれているのだと推測します。
もちろんCentaurusにはPEQがありそれは魅力的な機能でありますが、PEQで補正できるのは周波数特性だけで、基礎性能を変えることは出来ません。
比較と検討②ではHolo Audio Cyan2を選びました。
比較と検討③Topping D90III Discrete・Gustard X26III
Holo Audio Cyan2を検討する段階でTopping D90III DiscreteやGustard X26IIIの名前が出てくるようになりました。実力的に近いからこそ比較されるため、これらも比較の土俵に上げることにしました。
D90III DiscreteはR2Rではなく1bitのDirect Stream DACになります。PS-Audio DirectStream DACみたいな感じでしょうか。これをディスクリート構成で実現したもので、Centaurusと同じ15万円と、Cyan2やX26IIIよりも1段階低価格帯の製品になりますが、これらの製品と比較されるという事実が、それだけの実力だと示していると考えます。
実際にTharbamar氏の動画でD90III Discrete、X26III、Pegasus II、また現在の所有機であるD400EXの比較試聴を重ねましたが、D90III DiscreteはX26IIIに近い存在であり、少なくともD400EXより大幅に優れていることを確認しました。
Gustard X26IIIは、正直に言えば今一番買うべきだと考えているDACです。SOUNDNEWSでのレビュー記事が印象的でしたし、上述の比較試聴を通して、X26IIIの実力は頭一つ抜けていた印象です。またD90III DiscreteもD400EXほどではなく、気にするほどでは無いかもしれませんが、それでも高域に若干の明るさがあるように感じています。コスパはよいですが、元々の目的はこの高域の明るさをどうにかしたいことなので、一旦テーブルから除外することにしました。
ちなみに、Tharbamar氏の動画ですが、アンプがアキュフェーズということを勘案したうえで考える必要があると考えています。それにTharbamar氏の動画に限らずですが、海外レビュアーのコメントも「ふと出る本音の部分」のみをどう抽出できるかが、一般消費者に出来る最大限の努力だと考えます。
それに、どのレビュアーも慎重に言葉を選んでいますが、結局のところシステムのバランスと個人の志向、そして経験に帰結します。
この比較ではGustard X26IIIを選びました。
それぞれの比較対決を制したもの
Gustard X26III
上述の通り、正直なところ、今一番欲しいと思っているDACはGustard X26IIIです。高域の明るさ対策としてのR2Rへの興味から始まったDAC買い換え検討ですが、X26IIIはフィルター段をチップ内蔵ではなくディスクリートで構築することでΔΣDACの弱点に対応しています。低域の駆動力が頭一つ抜けていて、ステージングも広く、フォーカスもバッチリです。ただ、高域の明るさは無いようですが、パンチのあるアグレッシブな音のようなので、リラックスして聴く時にアンマッチになる可能性があります。
Holo Audio Cyan2
私の予算で手の届くR2R DACとしては最有力候補です。X26IIIでの懸念事項が現実である場合にはCyan2が最適な選択肢になりそうですが、あまり空気録音での比較が出来ておらず、Spring3で代替比較を行っている都合、この2機種での差異が想定より大きい場合に「思ってたのと違う」となる可能性がありますが、BGMのように聴くのがメインという自分の使い方に一番マッチしているのはこの機種だと考えています。
Musician Audio Pegasus II
自分自身が想定していたよりもR2Rの特性である暖かい音を望んでいた場合にはこれが最良の選択肢になる可能性がありますが、そうで無かった場合には失敗にもなりかねません。とはいえ、他の2機種に比べれば低価格なので、ダメージは相対的にですが少ないです。ただ、Musicianは壊れやすい(DenafripsやLADDERもそうですが)という話もあり、実際A70Proが1年で壊れたことを考えると、より複雑なR2R DACでガレージメーカーに近い製品を選ぶことはある種のギャンブルに近いものがあるかもしれません。
とはいえ、壊れたときの対応はいずれも中国製で時間が掛かることは変わりません。Holo Audioが一番楽かな、くらいだと思います。
参考サイト・参考動画の紹介
ここまでDACの検討経緯を書きましたが、製品を絞り込むことが出来たのはひとえに海外レビュアーのレビューと空気録音のおかげです。感謝と共にリンクを記載します。
最後に
オーディオをやる上で非常に良い時代になりました。昔は博打要素の大きかった中国製もGustardやSMSL、Toppingなどは低価格でありつつ安心と高品質を両立するようになってきましたし、YoutubeはAIによる自動翻訳で英語の動画であっても日本語字幕で楽しめるようになりました。私のような底辺工業高校卒で実質中卒レベルの人間には大変ありがたいです。
ありがたく感じるのは日本のオーディオ雑誌やオーディオ評論家というものをあまり信じていないからかもしれません。SONYのEVもそうですが、メディアは広告主に忖度しすぎていると感じます。もちろん広告料の話はありますが、広告もユーザーがいて初めて成り立つものです。そこにユーザーがいなくなってしまっては広告料を払う広告主もいなくなることに広告主もメディアも気づくべきです。日本に限った話ではないかもしれませんが、ASRのような測定主義の台頭ももしかするとこうした部分が背景にあるのかもしれないと思っています。
ちなみに、私は昔自動車系の開発にいましたが、自動車の開発において測定は非常に重要ですが、数字がすべてではありません。最終的には人間が操作して人間が直接感じたものが評価されるからです。例えば0-100km/h加速で同じタイムでも、速く感じるものと遅く感じるものがあります。つまり数字は単に人間が客観的に理解しやすくするための指標でしかなく、実際に人間がどう感じるかは全く別の話で、これらを数値化できればいいのですが、こうした人間が感じる過渡応答・動特性の部分は数字に丸めるのが難しいのが実情です。とはいえ、もしかするとこうした評価もAIが解決してくれるかもしれません!そのためにはプラシーボと先入観を排した官能評価データをAIに食わせる必要がありますし、人間側の特性も踏まえなければなりませんが・・・
本題の話でいえば、あとは決めるだけの話だと考えています。もちろん悩ましいですし、失敗は怖いですが、とはいえいずれかを選ぶ必要はありますし、選ばなければ変わらないし、変わらなければ結局経験も積めません。
それに失敗したらすぐに売ってしまえばダメージは最小限で済みますし、失敗とはいえあくまで「自分の志向に合わなかった」だけなので、中古で売ることへの罪悪感もありませんからね!
リンクはAmazonアソシエイトになっているので、もし購入する場合はこちらからしていただけると嬉しいです。