後輩から、「今Yさんと一緒にお仕事してるんですが、今度一緒に飲みませんか」と連絡が来た。夫婦で顔を見合わせて「Yさんってだれ?」となったのだがどうやら学生時代の同期だったようだ。学生時代はあだ名文化で、本名と全く関係ないあだ名が付いている人ばかりだったので未だに特定するのに苦労する。
Yは油画専攻の痩せ身の男で、いつもオレンジのジャージを着ていた。漫画を描き、格ゲーをやり、当時の彼女に15万くらいを借金しており、サークル棟で会うたびに挨拶するとすごい早口で「喋んなブス」と暴言しか言わない人だった。(つまりちゃんと会話したことがない)
そんなYだが、黒髪ショートの色白な彼女にはぴったりくっついて歩いていたりするので見かけるたびに「可愛いやつだなあYは」と思っていた。
夫の格ゲー対戦相手がだいたいこの男で、部室に遊びに行くと高確率で夫とKが長時間対戦していた。
まあ、一度も会話が成立したことがないけれど、面識はあるし、自分のことも覚えてると言うしで一緒に飲みに行く事になった。
渋谷の桜が丘の奥にある雑居ビルの2階にある居酒屋で待っていると、どかどかと店に入ってくる大男が2人。1人は友人と、もう1人は記憶よりも3倍くらいに肥えたYだった。人違いだと思うレベルで容姿が変わっていたのでマジで誰!と思わず大きな声が出てしまった。
そんな興奮気味のわたしとは対照にYはか細い声で「ひ、久しぶり」と挨拶した。昔みたいにブスって言わないのーと冗談を振ったら、「それは、あの、本当に、良くない」と苦笑いし、わたしと友人はそこで爆笑した。そうしているうちに夫と後輩と合流、乾杯した。おかしな話だが私はその日初めてYと会話し、ごはんを食べ、仕事のこだわりとかを聞き、最終的に入籍時のチェキまで見せて貰った。
小さなポラロイド写真の中には大男とクールな印象の女性がキメ顔をしながら映っていた。当時の彼女とはまたちょっと違う雰囲気の方だね、とつぶやくと「そうだよ」と言う彼の顔は昔よりずっと穏やかだ。