『哀れなるものたち』内容に触れてしまう部分をモソモソと

ロジチカ
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公開:2024/2/5

船パートで出会う老貴婦人のマーサと青年ハリーがベラの歯に衣着せぬ真っすぐな疑問や物言いに対しても会話ではなく対話をしてくれるところでベラが世界の核心に触れてみたいと思うのがとても良かった

ダンカンが半ば八つ当たりでマーサを海に落としてやると息巻いた時、ハリーがどうぞと言わんばかりにダンカンをあっさり通すシーンで二人の信頼関係が窺える中、それをみて大笑いしているベラも向けられた悪意をユーモアで返す事を全身で浴びているようで好きだった

哲学を実のあるものとして捉えるマーサとそれを学んだ上で人類が醜い獣であるということから目を背けるための学問が役立つとは思えないと少しの皮肉を口にするハリーの、異なる価値観を持ったまま成立している本能的な結び付きとはまた別の次元にある関係性に触れて、ベラが世界は輝かしいものばかりではない事や知性に強く惹かれていくという洒脱な転機

変化していくベラの興味をすっかり奪われ癇癪を起こしあぶく銭もろとも破散するダンカンも、反応が素直な分もしかしたら人間解像度は一番高いのかもしれないと思わされてしまうあたりマーク・ラファロ成分の効き目が抜群でお茶目さが滲んでしまうから憎みきれないキャラクターの1人だった

父親に実験台にされた過去と身体を持ちながらもその影を追い求めてしまい父性と研究者としての狭間で葛藤するゴッドウィン、どんなに理不尽な展開でもベラの意思を尊重してしまうマックス、娼館で出会う様々な事情を抱えた人たち、猜疑心から人を異常なまでに抑圧しようとするブレシントン、ベラが出会った人々は不完全で欠陥を抱えた哀れなるものたちではあるのかもしれないけど、各々が愛嬌や影を抱えて生きている

純粋に物事を捉えていたベラがそういう人々と関わりながら経験を通し学びを得た事で歪な世の理に変化を望む意思はいつしか力を生む

ラストはベラ自身もブレシントンに力を行使する事でその一部である事は避けられないという骨組みの起承転結が骨太で、時間が経ってからも噛んでると味がしてくるような気になってしまう観察側の人間が結局一番哀れなのかもしれないという気持ちになる

性別による偏見や押し付けられるセオリーを皮切りとした純粋な本能から始まる成長の物語は社会的な問題点と共に一貫して人が抱えているものを映し出していたように思う

ベラ自身が魅力的だからこそ罷り通った部分は確かにあるかもしれないけど、ベラはそれを盾に尊大になったり卑屈になったり無知を恥じたり、抑えられない好奇心に対する言い訳をした事は一度もなかった

誰よりも純水で自由な意志が世界と自らの過去に触れ変態していく様はただただ圧巻

ランティモス監督の奇想天外ながらも核心に切り込む大胆な手腕、エマ・ストーンの全てを飲み込む嵐のような凄まじい演技力、目から耳から入ってくるもの全てがパワフルだった

@rojiuradio
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