風呂上がり、濡れた体をいつものバスタオルで拭く。
何枚かのバスタオルをローテーションしており、毎日同じタオルを使う訳では無いが、何年も使っていれば劣化も目立ってくる。
肌触りの良かったあの頃に比べ、どうにも水分を吸収してくれなくなったような気がするため、この度バスタオルを新調する運びとなった。
新しいバスタオルは折りたたんだまま浴室の前に置いてある。
浴室から出た後、のんびりしていてはせっかく温まった体温が奪われ続けるため、体が冷える前にとタオルに手を伸ばした。
折りたたまれたままのバスタオルは完全に広げきられる前に、急ぐように私の顔を包んでくれる。
いつもの洗剤の匂いがしない
いつものパサパサとした手触りではない
いつもの、毎日続けてきた風呂上がりではない
数年に一度、世界が新品のタオルでいっぱいになるこの瞬間だけ、何となく旅行をしている気持ちになれる気がする。
旅行先のホテルに行った時に見る、なんてことのない備え付けのバスタオル。
新品のバスタオルを使う場面が、『数年に一度の買い替え』と『旅行先での宿泊』ぐらいしかないために、うっすらと記憶が呼び起こされているのだと思う。
明日からは、いつもの洗剤の匂いがするバスタオルになってしまうし、旅行をするのはまた数年先になりそうだ。