ワイヤレスイヤホンとかヘッドホンは年々すごい進化していて、高音質だったり低遅延だったりで使えるようになった。良い時代になった。私もSONY WF-1000XM4とかShokz OpenCommとかを愛用して音楽を聴いたりYouTubeを見たりしている。
一方で、なかなか進化してない気がするのがワイヤレスヘッドセットの通話用途の音質。SONY WH-1000XM4みたいな結構優等生なヘッドホン使ってても、音楽を聴いている間は良いけど通話した途端に低音質になってしまう。これは、音楽鑑賞用のBluetoothプロファイルであるA2DP(SBCとかLDACなどのコーデック)と音声通話用のHFPの違いによる。
簡単に説明すると、音楽鑑賞に比べて通話というのは「マイク入力」と「音声出力」つまり「上り」と「下り」の双方向で通信する必要があるので、単純計算でも使える帯域が半分になるような感じ。実際には半分どころではなくて、音楽鑑賞と音声通話では色々と事情が違うので、色々あって音声通話のプロファイルに切り替わった途端に音質が一気に落ちる。
具体的に言うと、音声通話のHFPのサンプリングレートはそのバージョンにもよるが最大でも16kHzしか無く、音楽鑑賞用のA2DPの中でも音質が高くない基本的コーデックであるSBCの44.1kHzと比べても大きく劣ってしまっている。ちなみにSONYのLDACは96kHzで、いわゆるハイレゾに相当するサンプリングレートを誇る。
私も2020年から例によってリモートでの会議が増えたので、音声通話用の音響環境を色々試行錯誤した。そしてワイヤレスヘッドセットを使った時のHFPの音質の悪さを脱するため、マイクだけ有線接続してワイヤレスヘッドセットをA2DPで音声出力のみで使うというのが最適という結論に至った。こうすると自分の音声も相手の音声も高音質でやり取りできる。しかしこの構成はマイクが有線接続であり、ワイヤレスの恩恵をあまり受けられていない。デスクに設置するタイプのマイクを使っていた時もあったけど、今はSoundWarrior SW-NS1という首掛けタイプのマイクを使っているので、有線接続のコードがどうしても体やデスクに引っかかってしまう。それでもなんだかんだこの環境で使ってきた。
さて時は流れて2024年、音声通話の環境を整えてから4年が経つ。世間的にもリモートでの会議は当たり前になって、ワイヤレスのニーズは一定あるはず。それなのにまだHFPの低音質でやるしかないのか、今の音声通話の技術がどうなっているのか調べた。
HFP
サンプリングレート8kHz
HFP 1.6 HD Voiceでは16kHz
参考
まずはHFPのおさらいから。これは基本的なプロファイルで、2024年に発売されているBluetooth対応のPCやスマホ、ワイヤレスヘッドセットのほとんどがHFPに対応していると思う。(SONY INZONE Budsなどの例外はあるが)
そして、とにかく音質が悪い。これを使わずにワイヤレスで音声通話を実現したいというのが本記事の趣旨である。
aptX Adaptive
マイク側(aptX Voice)サンプリングレート32kHz
対応機種
参考
aptX と言ってもなんか色々あるので注意が必要。aptX Adaptiveは音楽鑑賞に使えるコーデックだが、音声通話用のaptX Voiceというのも内包している。本記事の主題はこのaptX Voiceの部分になる。SBCに迫るレベルの音質で音声通話ができるようになるようだ。
aptX Adaptive は2020年頃に登場して、2022年頃から対応デバイスも増え始めたっぽい。しかし全てのワイヤレスヘッドセットが対応しているわけではなく、対応状況はメーカーによって偏りがあるように見える。完全ワイヤレスのYAMAHA TW-E3Cが手に入れやすい価格帯だと思う。
対応したAndroid端末であれば、aptX Adaptiveで接続した時はそう明記されるので分かりやすい。スマホやPCがaptX Adaptive対応していなくても、Creative BT-W4やSennheiser BTD 600といったaptX Adaptive対応オーディオトランスミッターがあれば試すことができる。aptX Adaptiveは何でも使える訳では無いが、対応デバイスを調べれば比較的手に入れやすい物もいくつか存在するので、2024年1月時点で現実的な選択肢ではあると思う。
LE Audio / LC3
音楽鑑賞時サンプリングレート48kHz
参考
LE AudioはBluetooth Low Energy(LE)で動作する新しい規格で、LC3というオーディオコーデックがある。LC3以外にLE Audioのコーデックがあるのかは知らない。軽く調べてみると音楽鑑賞で48kHzのサンプリングレートが使えるようだが、音声通話については「高音質になる」という程度の表現に留まっていて、実際どうなのかよく分からない。Creativeの製品ヘルプにはLE AudioのマルチストリームオーディオによってHFPを使わなくてよくなるといった事が書いてあるが、マルチストリームオーディオは左右分離型のような別デバイスとの通信の話だと思うので、同じデバイスの音声出力とマイク入力との間にマルチストリームオーディオを適用するような話なのかは分からない。これが48kHzの双方向音声通話を意味するなら、かなり高音質な通話ができるということになる。
そんなLE Audioは、2024年初時点ではSONY Xperiaなど限られた端末しか対応していない。PCやスマホが対応していない場合はオーディオトランスミッターが必要になるが、これも2024年1月頭時点ではCreative Zen Hybrid Proの付属品など限られた入手方法しか無いらしい。LE Audioはまだ早いような気がする。
おわりに
というわけで、HFPの代替になりそうな物はいくつかあるが、対応機種が少なかったりヘッドセットとPC/スマホを組み合わせる必要があったりして、なかなか混沌としている。2024年は、好きなワイヤレスヘッドセットで高音質音声通話ができる時代になって欲しい。高音質音声通話が可能で、オープンイヤー型(骨伝導とか)で、Chromebookで使えて、指向性の強いブームマイク搭載のワイヤレスヘッドセットが欲しい。Shokz OpenCommシリーズがaptX AdaptiveかLE Audioに対応してくれれば話が早い。