異世界へのチケット。値段は、東京と大阪を新幹線で一往復するくらい。
チケットと言っても、使い切りではない。乗り放題だ。一度買えば、繰り返し使える。壊れるまでは、何度でも。
しかも、行き先は無数にある。それに、日々増え続けている。たくさんの作り手が、思い思いに創り出した、限りのない想像上の世界。
移動時間は、目的地による。
自宅から、だいたい、十数秒。長くても、多くは5分かからない。
夢のような話だが、そのチケットは実在する。どう? 欲しい?
ヘッドマウントディスプレイの話だ。
いわゆる、VRゴーグル。顔に被って、立体視できる映像を流すやつ。音も出る。まるでその場にいるように体験できる、あれ。
音と映像だけだ。が、音も映像もある。それだけあれば、相当な臨場感がある。臨場感と表現するのも惜しいほどに、だ。臨場感という言葉では、あの感覚が伝わらずに取りこぼされてしまうと思う。それほどに強く、その場に居る感覚を得られる。
私は主に、VRChatをやっている。
世のVRCの紹介を読むと、よく取り上げられるのは「人対人」の面だ。実際、ジャンルとしては「ソーシャルVRサービス」らしい。ソーシャル。社会。人の群れが前提にある。
黎明期の、成長中の「社会」ならではの、熱量がある。
面白い人がいる。すごい技術を持つ人がいる。多様な表現をする人がいる。
好きな姿になれて、好きな姿で誰かと接することができる。
距離を超えて、空間を超えて、誰かと繋がれること。まるで目の前に相手がいるような、臨場感。それはふつうに画面越しに繋がるよりも、もっと強力に情動に訴えかける。
それももちろん、大きな魅力だ。
現在私は、それらからは一歩離れて、主にひとりでバーチャルの世界を旅行している。
VRChatに集った人々は、どこで交流をするのか。「ワールド」と呼ばれるところだ。3Dのゲームを想像すると分かりやすいかもしれない。キャラクターが動き回る、3Dのステージ。ああいう感じの景色や部屋の中で、人々は自由に動き、交流をする。好きなアバターの姿になって。
「VRChatの中でなら、好きな姿になれる」。これは有名な話だろう。たくさんの人が、様々なアバターを作っている。それを選んだり、カスタムしたり。自分で作ることも、もちろん可能だ。
同じように、人々が集うワールドも、たくさんの人が作っている。個人が作ることが可能で、世界中にたくさんの制作者がいる。作って、公開し、開放してくれている。想像力の庭を。
だれかの思い描いた世界の中に、入り込むことができる。探検できる。旅することができる。無数に存在する、美しい世界の中を。いくらでも。何回でも。どこかに、行ける。自宅から、数分で。
まるで本当にその場にいるような、臨場感。それはただ画面越しに景色を見るよりも、もっと強力に情動に訴えかける。本当の旅行のように。
美しいワールドは、交流のために使わなくとも美しい。
ひとりだろうが、美しいものは美しい。
凝ったスクリーンショットに残さなくとも。SNSに載せなくても。誰に伝えなくとも。
感想を作者さんに伝えられたら、もっといいだろうけど。
もちろん、二人旅も、大人数の旅も可能だし、きっと楽しいだろう。
しかしそのためだけのバーチャルにしてしまうのは、少々もったいなく感じてしまうのだ。こんなにも沢山の、面白い、素敵な目的地があるというのに。
だれかとの繋がりが取り上げられがちな場所で、「ひとりで心ゆくまで探索する」という選択肢があるってことを、VRCを知らない人たちにも聞いて欲しくて書いた。
バーチャルの一人旅も、面白いってことを。身軽な一人旅ですら全部回りきれないほど、沢山の新天地があるってことを。
まあ、価格については最低限の話なんだけど。ガッツリやると話が変わってきます。💸