吉本ばなな『ミトンとふびん』、長野まゆみ『よろづ春夏冬中』、九井諒子『ダンジョン飯』の三角読みをしている。食べ進める比率は若干偏っている。
下記、経緯と好き勝手な感想。
長野まゆみ『よろづ春夏冬中』
三角読みの発端は、先日仕事の調べもの中にふいに「跨線橋」というワードが目に入り中学時代に読んだ長野まゆみの短編集を思い出したからです。跨線橋を走る男を電車から見ている話なのだが、当時私は跨線橋が何か分からず饋電線や架線を跨線橋だと思って読んでいた。あんな細い線を駆けるなんて忍者みたいな話、絶対違うだろうなと思っていたが跨線橋が何かを調べることもせず話自体も十数ページのためすぐに次の話に移った。そもそもは中学の国語の教科書で長野まゆみの『卵』を読んで、“赴任”という単語を習った。その前後でKちゃんからスピッツの『たまご』をおすすめされて、中学校の隣にある図書館に寄ったら長野まゆみが置いてあったから、当作品含め貯蔵品は全て読んだ。
で、仕事中に跨線橋の図解を見て、当時読んだ跨線橋を走る男を思い返したが走るシーンと跨線橋がいまいち合致せずせっかくだし読み返そうと中古をアマゾンで探した。会社のパソコンで。しかも数十分後にはアポが取れた新規の顧客へ訪問しなくてはいけないのに、好奇心に負けたというより従った。長野まゆみ 跨線橋 で検索をかけると『よろづ春夏冬中』が出てきた。懐かしい表紙、確実にこれをハードカバーで読んだ記憶が蘇る。狭い市立図書館の二階、児童書は一階にあり、分厚い蔵書や勉強室のある二階に憧れ、その無音さが大人っぽいと背伸びをして何度も通った。ただ、その本は中古か電子書籍しかなく、店頭にはなかった。そりゃそうか、20年以上前の作品ってもう実店舗で売っていないんだなと衝撃を受ける。そのまま営業の外回りに出て、隙が出来た時にアマゾンで今度はプライベート携帯から中古本を選んで購入した。その時に送料が云々というので以前TLで見かけて表紙が非常に好みだと思っていた『ミトンとふびん』と、一昨年くらいに読んだ『私的読食録』を選んだ。これはTLでスクショ感想を書いたことがある。私的~は未だに手元へ届かない。
よろづ~は昨日届いたので嬉々として読み返したが、やはり跨線橋の描写がきっちり想像できず終わった。図解だと跨線橋は屋根や壁のある通路のようなもので、車窓から見えるようなものではないのだが、作品内ではまるで平均台を走っているかのような描写に見える。だから架線と見間違えてしまう。単に私の想像力の欠落によるものだろうな。話自体は非常に萌えるのでぜひ。
吉本ばなな『ミトンとふびん』
なにより表紙の色の移ろいが非常に好みで買った。よしもとばなな時代の作品を大学の図書室で読んだ。高校生の現代文で『みどりのゆび』を読んでから(数か月前、ラテさんから原作となったモーリス・ドリュオン作『みどりのゆび』の存在を教えてもらい読んで暗い気持ちになった)なんとなく存在を知っていたものの、たまたま大学時代に二次創作サイト(落乱)の管理人さんが「『デッドエンドの思い出』に収録されている『幽霊の家』が非常に良かった」という日記を残していて興味本位で買って読んだ。それがもう本当に良くて、表紙から完璧に私好みで、枯葉の綺麗な赤と黄色が舞うデザインで惚れ直した。収録されていた『幽霊の家』と『デッドエンドの思い出』だけ良くて、それだけ何度も読み直し実家を出る時も持ってきた。他の話は覚えていないが後味悪かったり怖いをした記憶があるので読み返していない。
で、久しぶりの吉本ばななを読み、うっかり泣いてしまった。寝る前と、出社中の満員電車でほろりと来て焦った。表紙の美しさとそれぞれの都市での話ということで旅行欲が増すかもという意気込みで読んだが、それ以上に作中に共通する母親の死が強すぎてうろたえた。でももれなく力を貰えるのでぜひ。ばなな著特有のうっかりな主人公と優しい周囲たちが動いている。作中の『夢の中』はしおさんを勝手に思い浮かべていた。つい最近金沢に行かれていたからというのもあるけれど、作中主人公の意志の強さが私にはしおさんに見えた。作者の作品を読んでいると、時たま「この主人公は友人nに似ている」となる。合っているかは別として、それを私は楽しんでもいる。
『情け嶋』で八丈島に思いを馳せ、飛行機代を調べまでした。明日葉という単語はリングフィットをプレイ中に食材の一つとして出てきたが、私はずっと「アスハ」「アスバ」と読んでいた。こういう葉っぱがあるんだな~。八丈島にあるアスハラーメンを食べてみたいし、アスハのおひたしや天ぷらも食べたいと他の感想の情緒をそっちのけで思っていた。読了したのが一昨日の金曜日で、昨日土曜日、近所の八百屋へ行って「あした葉 150円」という立札を見て目を見開いた。まさに見た目が野草、アシタバ、明日葉、はあ、なるほど、あしたば……?え……?少し迷って一束買った。そしておひたしにした。茎は苦いが葉は美味しい。アシタ・バなのか……。アシタバという言葉は以前から知っていたがアシ・タバ、ようは葦束だと思っていた。誰がアシタ・バって区切ると思うよ。もののけ姫のアシタカだってアシ・タカって漢字は区切るんじゃないの。アシタ・カなの?今日はサミットとマルエツに寄って明日葉を探したがなかった。
もうこれで私はこの短編集に区切りがついてしまったけれど、本当はそれぞれの作品に感想はある。『SINSIN AND THE MOUSE』はいかにも作者らしい言い回しの会話だなと思ったし『ミトンとふびん』は極寒の中、不思議な感覚のまま読み終え『カロンテ』は下手したら私にも起こりそうな事柄でありどこかアントニオ・タブッキを彷彿とさせる内容だった。そして冒頭に挙げた二作。どこに一番行きたいかと言えば?そうだな~~イタリアは前から二回目の渡伊を思っていたけど、八丈島が一番行きたいと思えたかな。明日葉ラーメン、すすってみたい。『SINSIN~』と『珊瑚のリング』でうっかり泣いた。私は父と娘の話に滅法弱いが、母と娘の話でもこんなに心が揺さぶられるんだなと思った。あと、今まで自分の遺伝子は後世に必要ないだろうから子供はいらないなと思っていたけれど親の遺伝子を残せるなら子供を産むことも必要かもなと思った。両親くらい優れていたら必要だろうと思う。
九井諒子『ダンジョン飯』
以前からaricoさんが面白いとツイートしており、しおさんと会った時もすすめられておりこの度Kindle50%OFFという文字につられて読了した。本当に50%になってる?なってない気がする。
あまりに確証がないが、私はしおさんにダンジョン飯のあらすじを「竜が日常的に飛んでいるなかで、ドラゴンの研究をうんたらかんたら」と聞いた気がする。のでそういう話かと思って読んだが全く違った。RPGをプレイしていて、プレイヤーが思うふとしたことを作中にうまくまとめている。まあそんなことなど何百万と述べられていると思うので省くけれど……。
あまりに一気に読み過ぎて感情が追い付かない。チルチャック最高!!絵が上手すぎる。『Artist-アルティスト-』とテンションが似ているなと序盤は思い浮かべながら読んだ。どっちも大好き。エルフのビジュアルが最高なところ、ハーフエルフの寿命、いや、本当に全部よくて金曜日からひたすら読んだ。最初から最後まで完璧に面白かった。こんな作品ある?まるで見て来たかのような描写、ストーリー、読み手の全く知らない世界をさも今もどこかで存在しているかのように魅せてくる。全員のキャラクターが魅力的だった。「そんなことある!?」というようなシーンが何度もあってそのたび笑った。兄妹の関係性に萌えた。とにかく上手すぎる。絵も話も。この日記の冒頭で作者の名前を打ち込んだ時「食い諒子……?」と思って慄いた。
これも最後の最後でチルチャックと娘達のシーンでほろりと涙をこぼした。あまりにも目に見える平和で……。……今、キャラ名を思い出すべくウィキペディアを読み返しているが思わず顔がにやついている。他人が言語化するとこう書くのか。
私は一気読みしてしまったけれど、これを毎話追っていた人達は考察とか喧々諤々としていたのだろうと思うと恐れ入る。毎話追うのと、一気に最終話まで辿り着くのとでは感想の力量が全く違う。私の感想なんてヒポグリフの羽より軽いだろう。でもこのあと、何度も読み返すのでその時はせめてライオスの鎧程度には重みがあればと思う。
本当に良かった。これから感想や考察サイトを読み漁る。私はカナリア隊がかなり好きだと思う。兄妹関係もこれを機に萌えられる。