『神に愛されていた』木爾チレン
以下、ネタバレを含む感想です。
作者と歳が近いこともあり、登場人物以外の固有名詞がほとんど分かったおかげで読みやすかった。小悪魔agehaとか懐かしい。雨は天音のことだと分かっていたけれど、まさか冴理の実家を燃やしているとは思わなくて笑った。行動力の鬼だな。水平思考ゲームで「母親の葬儀で女は見知らぬ男と出会った。数日後、彼女は自分の姉を殺した。何故?」という問題があるが、まさにそれと似たようなことをしていた。「天音がパスい話」「勘違いネタの応酬」なんだけど、そんな簡単な言葉で済むようなものでもないか。
私が面白いなと思ったのは、作者が作品の主人公と偶然似たことをしていたところです。
・作中で主人公がツイッターで『地雷』という作品を褒める⇒作者もツイッターで“『神に愛されていた』『地雷オペラ』が良かった”というツイートをRTしている
・主人公が文学フリマに出ている描写がある⇒作者も出ている
・主人公が「森見登美彦に感化された」ような小説を書く⇒作者の別作『そして花子は過去になる』の表紙が森見登美彦と同じ中村佑介
そもそもこの作品を知ったのもツイッターだったし、作中でもフォロワー数がどうのとツイッターの話題が多かったので作者のTLを覗きに行った。作者の配偶者は本の帯などを書く職に就かれているようなのだが、二人の結婚発表がある前に、作者の作品の帯を配偶者が書いていたり、二人のトークイベントが開催されていたようで、これは……交際していたから敢えて二人でやったのか……?それともたまたま?いずれにせよすごいな~と思った。
主人公視点⇒天音視点で話が展開されるので「主人公は嫉妬で狂っていた時、天音はそういう感情だったんだね~」と答え合わせができる。その中で、主人公視点の時に「学生時代の同人誌『オペラ』が主人公の時は数十部しか捌けなかったが、天音は何百部と刷って全て捌ききった超人」というエピがあるのだが、その部分が天音視点の時は特に触れられていなくて、彼女にとっては同人誌が何冊捌けようが大したことと思っていないということが分かって面白い。人に嫉妬しない(無自覚にしていることもあるかもしれないが)ので、主人公の気の狂い方は対岸の火事に見える。
あと気になるのは、天音がデビュー時には「ブリーチを何度もした銀色の髪」なのだが、そこから4年以上時が経過して最後は体調を崩すのだがその時は何色の髪の毛になっていたんだろう。主人公と対面しているのだが、特に描写がなかったので銀髪のままなのか……?と思った。
初めて文章を書ききって、鴨川を全力疾走するところがすごく良い。