うちの親(特に母親)は、食いしん坊だから、小さい頃から美味しいものを食べていたと思う。
小学校低学年から小料理屋に連れて行かれて土瓶蒸し食べたりしていた。秋になると行くのだなって幼心に思っていた。
10歳くらいの頃、知り合いが寿司屋にいるからと呼ばれて行った事がある。
親は座敷の知り合いの所に行ってしまい、私と妹ちゃん8歳はカウンターに座らされ、注文するのかわからないからぼんやりしていた。
すると板前さんが「何にする?玉子かな?お魚かな?タコさんかな?」と話しかけてきた。
正直、玉子もタコも食べたくなかった。
甘い食事が苦手な自分はお寿司の玉子は苦手な部類だ。でもここで板前さんの好意を無にしてはいけない。そう考えた私は小さく「……タコ」と答えた。板前さんは笑顔で握り始めてくれた。
そこへ母が来た。
「あんたたち、何か頼んだ?好きなの頼んでいいよ」
母は私たちを覗き込んで言う。それまで黙っていた妹ちゃんは顔を上げて
「赤貝のひも」
と答えた。板前さんは絶句した。母親は笑った。私もそれがいい。母はそれから
「蒸しアワビあるって、アワビ好きじゃん」
と振ってくれた。たぶんあれで(こいつらそう言うの頼むヤツらだよ)って説明したんだと思う。
妹ちゃんは赤貝のひもの後にえんがわを注文していた。
今思えば、妹ちゃんが黙ってたのは板前さんの好意に負けず(?)、食べたいものだけを狙っていたからなんだな。
下の子ってそういうところ強いよな。