忘却曲線が点線になっていつの間にか消えてしまう。このところ急にそんな感じになることがあって、今まで感じたことのなかった「現実のあやふや」に気付かされている。
はじめは戸惑う。そのうちに、ああ自分には今しかないんだ、という気分になる。なるというより、いまこの時以外の全部が「ない」と感じられる。こんなことは本当に初めてで、ロードムービーとかプロモーションビデオの中にいるようだ。前後どころか左右もない、独特の危うい感じ。
ついこの間決めたこと、思い立って始めたばかりのこと、出会った人、口に出した言葉、心に響いたこと、それらの全部が「はず」である。
決めたはずのことは、置き去りになり、始めたはずのことは、少し試しかけたところで止まっていて、話したり聞いたりしたはずの言葉は、誰かに気付かされるまで、どこにもいなくなっている。
このままだと、だんだん困ったことになるな、と思うようになった。老化といっても、これだけ頻回に起こるのは少しおかしい。そのくせ、焦る気持ちは起こらない。これはいつか、きっと困ったことになるだろう。
からっぽのスプーンに、見えないピンポン玉をのせて走って行っても、演技力でなんとかゴールできるんじゃないかと思っているところがある。根拠はなくてもそうする。そして「これではあかんよ」と言われても、走れるところまでは、走ってしまうのだ。
ただ、たとえ何もかも忘れてしまっても、今はずっといまのままだ。今だけは、なくなりようがない。今を忘れても、別の今は、ある。
そんな気分で、ぐるぐるとしている。