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「社会保険料を下げる」を解体する―OTC類似薬の保険給付見直しは、何を「公平」とするのか

Break the Frame@サリー
·
公開:2026/8/14

【2026年8月21日追記】

この記事は、厚生労働省が「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた中間とりまとめ」について意見を募集していた2026年8月14日に公開しました。意見募集は8月20日23時59分に終了しています。2027年3月の施行に向けた具体的な制度設計については、引き続き検討が続いています。


「社会保険料を下げる」と聞いたとき、あなたはどう思うでしょう。

給与明細を見るたび、額面から引かれる社会保険料。それが少しでも軽くなるなら、うれしい。可処分所得が増え、生活が少し楽になるのだから。そう感じる人は少なくないと思います。

では、その保険料を下げるためのお金は、どこから出てくるのでしょうか。

今、政府が進めている医療保険の制度改革の一つに、「OTC類似薬」の保険給付の見直しがあります。

OTCとは、ドラッグストアなどで処方箋なしに購入できる市販薬のことです。「OTC類似薬」には明確で共通の定義はありませんが、一般に、市販薬と成分や効能・効果などが類似する医療用医薬品を指す呼び方です。今回の対象には、ロキソニンやアレグラと同じ成分を含む医療用医薬品などが入ります。

今回の見直しでは、医療機関で処方された対象のOTC類似薬について、通常の1~3割の窓口負担とは別に「特別の料金」を患者が支払う仕組みが導入されます。

つまり、患者に薬剤費の一部を保険外で負担してもらうことで保険給付を減らし、保険料負担の軽減につなげる改革です。

では、私たちの社会保険料は、実際にどのくらい軽くなるのでしょうか。

2026年3月、上野賢一郎厚生労働相は、OTC類似薬の見直しによって、公的医療保険の加入者一人あたりの社会保険料を年間約400円軽減できるとの試算を明らかにしました。

月額にすれば、平均で約33円です。

毎月33円、社会保険料が軽くなる。それを「助かる」と感じる人は、どれくらいいるでしょうか。

もちろん、33円でも負担が減ること自体を歓迎する人はいるでしょう。けれど、問題は、その33円がどこから生まれるのかです。

今回の見直しでは、対象となる薬を処方された患者に、新たな「特別の料金」が加わります。社会保険料の負担が軽くなる一方で、別の場所に新しい負担が生まれる。

では、その負担を引き受けるのは誰で、いくら支払うことになるのでしょうか。

平均月33円の軽減は小さく見えても、新たな追加負担まで一人ひとりに33円ずつ均等に生じるわけではありません。対象となる薬を処方され、追加負担の対象となる人に集中します。

「社会保険料を下げる」。

この言葉だけでは見えにくい、負担の移動をたどってみたいと思います。

そのために、この政策がどこから始まり、どのような言葉で説明され、どんな政治過程を経て法律になったのかを、順番に見ていきます。


始まりは「保険適用除外」だった

今回の政策を直接たどると、重要な起点の一つは、2025年2月19日、日本維新の会が公表した「社会保険料を下げる改革案(たたき台)」にあります。

維新は、国民医療費を年間4兆円以上削減し、現役世代一人あたりの社会保険料を年間6万円引き下げるという目標を掲げました。なお、この6万円は単純平均で、被用者保険では事業主負担分も含みます。

その具体策の一つが、OTC類似薬の「保険適用除外」でした。

現在予定されているのは、保険給付を残しつつ、薬剤費の一部を保険外の「特別の料金」として患者に求める仕組みです。当初の維新案は、現在の制度より踏み込んだものでした。

ここで当時の政治状況も確認しておきます。

首相は石破茂氏で、自民党と公明党の連立政権でした。日本維新の会は野党です。

石破政権は衆議院で少数与党だったため、自民・公明は2025年度予算案の成立に向けて野党と協議し、2月25日、維新と修正合意しました。その中には、維新が掲げる「現役世代の社会保険料負担軽減」に向けた社会保障改革も盛り込まれました。

維新はこの合意を受けて予算案に賛成しました。一方、立憲民主党、国民民主党、共産党、れいわ新選組などは最終的な予算案に反対しています。

ただし、予算案への反対を、そのままOTC類似薬の見直しそのものへの反対とみなすことはできません。ここで確認できるのは、これが国会全体の合意ではなかったということです。

続く6月11日の三党合意では、必要な受診を確保し、こどもや慢性疾患を抱える人、低所得者の患者負担などに配慮しつつ、OTC類似薬の保険給付のあり方を見直すことが改めて確認されました。

6月13日には、石破内閣が閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2025」、いわゆる「骨太の方針2025」にも、この方針が盛り込まれます。

維新が持ち込んだ政策を、自民・公明が受け入れ、政府方針へ組み込んでいった。

したがって、この段階の責任を一党だけに帰すことはできません。維新には「社会保険料を下げる」改革として政策を提起した責任があり、自民党には政権党としてそれを政府方針にした責任、公明党には当時の連立与党として三党合意に参加した責任があります。

ただし、この時点で現在の制度そのものが決まっていたわけではありません。

そして、言葉も変わっています。

「保険適用除外」は、「保険給付のあり方の見直し」になりました。

何をする政策なのかが、少し見えにくくなっています。


医療者は何を警告していたのか

この動きに対して、全国保険医団体連合会(保団連)は早くから反対していました。

保団連は全国の医師・歯科医師で構成される団体です。今回の政策にも一貫して反対しているため、ここでは中立的な解説者ではなく、反対するアクターの一つとして発言を見ていきます。

2025年4月、維新がOTC類似薬を保険給付から除外する候補として28有効成分を示すと、保団連は、ヘパリン類似物質(皮膚保湿剤)、酸化マグネシウム(制酸剤)、フェキソフェナジン(アレルギー性疾患治療薬)など、「治療の一環として日常医療で広く患者に使われている」薬が含まれると指摘しました。

6月11日の三党合意にも翌日反応しています。

当時の「保険給付から外す」案を前提に、アレルギー性鼻炎や皮膚炎、便秘、花粉症などで使われる薬について、処方薬の3割負担と市販薬価格の差を試算。さらに、保険給付から外れれば、自治体の子ども医療費助成や難病の公費負担医療からも外れうるとして、患者負担の増加を警告しました。

市販薬の利用拡大による受診控えや症状悪化などのリスクも指摘しています。

「医療費を削減する」「保険給付を見直す」。

抽象的だった言葉に、薬の名前が入り始めます。

ロキソプロフェン。フェキソフェナジン。ヘパリン類似物質。

政策が具体的になるほど、それを使っている人も見えてきます。


患者はすでに何を伝えていたのか

そして、この政策に懸念を示していたのは医師団体だけではありません。ここは大切なので、医療を提供する側とは分けて見ておきたいと思います。

2025年11月20日、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会では、「OTC類似薬の保険給付の在り方について患者団体からのヒアリング」が行われ、全国がん患者団体連合会、日本難病・疾病団体協議会、日本アレルギー友の会、ささえあい医療人権センターCOMLの4団体が意見を述べています。

全国がん患者団体連合会は、がん患者が疼痛対策としてアセトアミノフェンやロキソニンテープ、治療薬による便秘対策として酸化マグネシウムなどのOTC類似薬を使っている実例を紹介しました。

その患者は、下記のように語ったといいます。

自身が乳がんの治療を続けることは社会にとっていいことなのかと悩んでいる

OTC類似薬は、いわゆる「軽い症状」のためだけに使われているわけではありません。がんそのものではなくても、その治療を続けるために必要になる薬があります。

続いて、日本難病・疾病団体協議会が突きつけたのは、「軽症なら市販薬で」という考え方の前提そのものです。

初診の場合、自分の症状が受診すべきかどうかを患者自身が正確に判断することは本質的に不可能です。

診断を受ける前の人は、自分の症状が「市販薬で済ませられる軽症」なのか、重大な病気の初期症状なのかをまだ知りません。

同協議会は、下記のようにも訴えました。

病院に行くか、行かないか、1日の迷いがその人の生命を左右する現実があります。

さらに、日本アレルギー友の会は、もう一つの問題を示しています。アトピー性皮膚炎などでは、症状が出たときだけ薬を使うのではなく、症状をコントロールし、再び悪化させないために継続的な治療が必要になります。

アトピー性皮膚炎は慢性疾患であり、重症例の場合、その負担を何十年と続けなくてはならない。

特に、所得の低い若い患者には生活費を切り詰めて医療費を支払っている人がいることや、疾患のため安定した就労が難しい人にとって、さらなる医療費負担が生活そのものに影響することも訴えました。

そして、COMLは、「保険給付から完全に外して市販薬を購入してもらうこと」と、「医療用医薬品として処方を続けながら患者負担を増やすこと」は別の議論だと整理しました。

完全に保険から外した場合には、下記のように指摘しています。

こんな高い薬は買えないということで購入しない患者が出てきて、そもそも治療というものが成立しなくなってしまう。

一方、仮に追加負担を求めるとしても「患者負担が重くなり過ぎないような配慮」が必要だと述べています。

審議会の外でも声は上がっていました。日本アトピー協会は2025年6月、「アトピー治療に必要な薬をこれからも保険適用にしてください」とするオンライン署名を開始しました。7月10日には集まった署名を厚生労働省に提出し、その後も署名活動を継続しています。

なお、この署名は2026年8月14日現在も継続中です。内容を読んだ上で、趣旨に賛同される方は署名することができます。

さて、上記に書いてきたように、後になって患者への影響が発見されたわけではありません。

「軽症かどうかを患者自身には判断できない」 「治療は何十年と続くことがある」 「がんなど別の病気の治療を支えるためにも使われる」 「負担が増えれば、薬を買わず治療そのものが成立しなくなる人がいる」

こうした懸念は、制度が固まる前から、厚生労働省の正式な審議の場で具体的に伝えられていました。


連立が変わる

2025年秋、政治状況そのものが変わります。

10月、自民党と公明党の連立が解消され、その後、自民党と日本維新の会による連立政権が発足しました。

石破政権では、OTC類似薬の見直しは「野党の維新が自公政権との政策協議で求める改革」でした。それが高市政権では、自民・維新という連立与党自身が進める改革になります。

そして12月19日、自民・維新は、OTC類似薬の保険給付の見直しについて政務調査会長間で合意しました。

ここで、現在につながる制度の骨格がかなり具体的になります。

まず77成分、約1,100品目を対象とし、薬剤費の25%相当を、通常の窓口負担とは別の「特別の料金」として患者に求める。残る75%を保険給付の対象とし、その部分には通常の1~3割の窓口負担がかかります。2026年度中の実施を目指すというものです。

維新が当初掲げた「保険適用除外」そのものではありません。保険給付を残しながら、薬剤費の一部を保険の外に出し、患者の追加負担とする仕組みに変わりました。

ただし、これはまだ与党間の合意でした。12月23日、上野賢一郎厚生労働相は「現段階で具体的にこうすると決まったことはありません」と述べ、政府として制度設計を進める段階にあることを明らかにしています。追加負担への「配慮」を誰にどう適用するのかなども、まだ確定していませんでした。

また、この77成分、約1,100品目で見直しを終えるともされていませんでした。2027年度以降には、対象となる医薬品の範囲の拡大や「特別の料金」の変更について、施行状況を踏まえて検討する方向性も示されています。

保団連はこの合意にも反対し、12月23日には追加負担の対象とされた77成分・約1,100品目の薬剤リストを公表しました。患者への調査や患者団体との記者会見でも、治療継続や受診への影響を訴えています。

ここでも、政策を表す言葉が変わります。

「保険適用除外」は、保険給付を残しながら薬剤費の一部を保険外で負担してもらう仕組みへ。そして、患者が新たに支払うお金は、「特別の料金」と呼ばれるようになりました。


誰と誰の「公平性」なのか

なぜ、この追加負担が必要なのでしょうか。

政府が制度の理由の一つとして掲げているのが、「公平性」です。

保険を使って医療用医薬品の処方を受ける場合と保険を使わずOTC医薬品で対応する場合の公平性を踏まえ、日常的な医療に用いる、 OTC医薬品でも代替可能な医療用医薬品の保険給付の範囲を見直します。

この論理は、いったんできるだけそのまま考えてみたいと思います。

OTC医薬品を自費で購入して対応している人がいます。

一方で、医療機関を受診すれば、似た成分の薬を公的医療保険を使って処方してもらえる場合があります。

たとえば、仕事などの事情で医療機関を受診しにくい人がいるとき、この負担の差をどう考えるかという問題があります。

同じような薬なのに、一方は全額自己負担し、一方には保険給付がある。

それは公平なのか。たしかに、そう問うことはできます。

でも、比較する相手を少し変えてみます。

一時的な症状で市販薬を使う人と、慢性的な疾患のため医師の管理下で薬を使い続ける人は、同じ条件にいるのでしょうか。

そして、仕事などの事情で医療機関を受診できない人がいるとき、実現すべき「公平」とは何でしょうか。

受診できている人に新たな自己負担を求めることでしょうか。それとも、必要な人が受診できる環境を作ることでしょうか。

保団連も、この「公平性」の説明に反論しています。受診できず市販薬を使っている人との公平を理由に、受診している患者へ新たな負担を求めるのではなく、必要な人が医療へアクセスできる環境を整えるべきだ、という主張です。

私も、これを「公平」と呼ぶことには疑問があります。なぜ、受診できない人が抱えている不利益そのものを是正するのではなく、その不利益に合わせて、受診できている側に新たな自己負担を求めることを「公平」とするのでしょうか。


「配慮」はどう線引きされたか―「年間おおむね50週」

2026年3月13日、政府は健康保険法などの改正案を閣議決定し、国会へ提出しました。ここで、それまで検討されてきた仕組みに「一部保険外療養」という法的な名称が与えられ、法律案として提案されます。

国会審議を経て、5月29日、参議院本会議で賛成166票、反対79票で可決。法律は成立しました。

最終的な参議院の採決では、自民党、日本維新の会に加え、国民民主党、参政党、日本保守党、チームみらいなどが賛成。立憲民主党、公明党、日本共産党、れいわ新選組、社民党などが反対しました。

公明党については少し複雑です。

石破政権時代の2025年には、連立与党として自民・維新との三党合意に参加し、OTC類似薬の保険給付見直しを進めることに同意していました。

しかし自公連立解消後、2026年の最終的な法案には反対しています。政策形成に参加した責任と、最終法案への賛否は分けて記録しておく必要があると思います。

では、法律が成立したことで、何が決まったのでしょうか。重要なのは、すべてが決まったわけではないことです。

法律で創設されたのは、療養にかかる費用の一部を保険給付の対象としない「一部保険外療養」という仕組みです。OTC類似薬については、市販薬との代替性が特に高い医療用医薬品をこの仕組みに位置づけることになりました。

しかし、対象となる77成分を、どの効能・効果で使用した場合に追加負担を求めるのか。誰のどのような療養には追加負担を求めないのか。

こうした実際の線引きには、法律成立後の制度設計に委ねられた部分がありました。厚生労働省は6月から技術的検討会で、対象医薬品と、別途の負担を求めない人・療養の範囲について検討を進め、8月6日に中間とりまとめを公表しました。その後も、社会保障審議会医療保険部会などで議論を続けるとしています。

ここで重要になるのが、「配慮」という言葉です。8月6日に公表された中間とりまとめには下記の記載があります。

引き続き必要な医療が確保されるよう、こども、がん患者や難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えている方、低所得者、入院患者、医師が対象医薬品の長期使用等が医療上必要と考える方等に対しては、別途の負担を求めない配慮を行うこと

厚労省は、こども、がん患者や難病患者など配慮が必要な慢性疾患を抱えている人、低所得者、入院患者、医師が対象医薬品の長期使用などを医療上必要と考える人などには、新たな負担を求めないとしています。

では、「長期使用が必要」とは、どのように判断されるのでしょうか。厚労省は、単に使用期間の長さだけでなく、その薬がどのような医療上の目的と管理の下で使われているかに着目するとしています。

その上で、中間とりまとめでは、内服薬(頓服薬を除く)について、「年間処方日数がおおむね50週」を長期使用の目安としています。

一年は52週です。ほとんど一年中、処方を受けていることになります。

厚労省の集計では、追加負担の対象となる77成分のうち、内服薬(頓服薬を除く)を2024年度中に一度でも処方された患者について、年間50週以上処方されていた人は5.2%でした。

ただし、この「50週」が、すべての配慮対象を決める共通の基準なのではありません。がん患者や指定難病患者などには別の整理があります。ここで50週という目安が使われているのは、「医師が対象医薬品の長期使用等が医療上必要と考える方」を、内服薬についてどう具体化するかという場面です。

その上で、政治の言葉と制度の言葉を並べてみます。

「慢性疾患を抱えている方の患者負担などに配慮する」。

「年間処方日数がおおむね50週」。

もちろん、後者がすべての慢性疾患患者に適用される基準なのではありません。それでも、政治の場で広く語られた「配慮」が、制度設計の段階では、疾患や治療の状況、薬の使い方ごとの具体的な境界線へと変わっていきます。

その境界線の一つが、「年間おおむね50週」です。

毎年数か月にわたって治療が必要になる季節性アレルギー。

症状の増悪と寛解を繰り返しながら、長期にわたって管理する疾患。

こうした病気では、治療との関係は何年も続いていても、一年のほとんどすべてで同じ薬を処方されるとは限りません。

実際、中間とりまとめでは、長期使用について「症状が季節や環境要因によらず持続」していることを重視しています。点眼薬についても、季節性アレルギー性結膜炎などへの使用が中心であるとした上で、通年性が確認できる場合には追加負担の対象外と整理しています。

「配慮」という抽象的な言葉は、制度になると境界線を必要とします。

そして境界線が引かれれば、そのすぐ外側に人が残ります。


市販薬を使わないで、と書かれていても

現在の中間とりまとめには、もう一つ気になるところがあります。

市販薬の添付文書には、年齢や疾患、症状、併用薬などを理由に、「服用しないこと」とされている場合があります。

厚労省の中間とりまとめは、その中でも、自己判断による服用を避け、基礎疾患や症状、併用薬などを踏まえて医師が判断することを求める趣旨のものについて、医療機関を受診したからといって、それだけで追加負担の対象外にはしないと整理しています。

つまり、「自己判断では使わず、医師の判断を受けるべきだ」とされている人が医療機関を受診し、医師の判断で対象となる医療用医薬品を処方された場合でも、そのこと自体を理由に追加負担が免除されるわけではありません。

もちろん厚労省は、この制度は市販薬の自己使用を一律に求めるものではなく、必要な受診を行った上で、結果として対象となる医療用医薬品が処方された場合に追加負担を求める仕組みだと説明しています。必要な受診そのものは引き続き確保される、という考え方です。

それでも私は引っかかります。

この制度では、「医療用医薬品の処方を受ける人」と「OTC医薬品を購入する人」との公平性が理由の一つに挙げられています。

しかし、OTC医薬品を自己判断では使用せず、医師の判断を受けるよう求められている人まで、本当に「OTCを自分で購入して使える人」と同じ条件にいるのでしょうか。

医師に相談した結果として同じ成分の薬が必要だと判断されても、その薬には追加負担が生じうる。ここでも、「公平」を考えるときに、誰と誰を比較するのかという問題が残ります。


年間400円は、どこから来るのか

ここで、最初の話に戻ります。

厚生労働省は、今回のOTC類似薬の見直しによる保険料軽減効果を、公的医療保険の加入者一人あたり年間約400円と試算しています。

月に直せば、平均で約33円です。

ただし、すべての加入者の保険料が一律に年間400円下がる、という意味ではありません。制度全体として生じる保険料軽減効果を、加入者一人あたりに平均した数字です。

厚労相自身も、この制度について、対象となるOTC類似薬を処方された人の窓口負担が増え、その分、全体の保険料負担が軽減される構造だと説明しています。

一方、負担は同じように薄く広く生じるわけではありません。

保団連は、この見直しによる年間約900億円の医療費削減について、約500億円を患者への追加負担、約400億円を受診抑制による医療費減として整理しています。

そして、患者一人ひとりに生じる負担についても試算しています。

たとえば、花粉症で内服薬1種類に加えて点眼薬・点鼻薬を処方される患者では、月約1,500円の負担増になると保団連は試算しています。

別の機会には、花粉症の治療薬について、1シーズンで5,000~7,000円程度の追加負担になるとの試算も示しています。これは2026年4月21日の厚労相会見で保団連側が示した数字で、厚労相はその場で、季節性の症状は追加負担の対象と想定していると答えています。

年間約400円。月約33円。

それが、加入者全体に平均した保険料軽減効果です。

一方で、その軽減を生み出す仕組みの中では、対象となる薬を必要とする人に、月数百円、場合によっては千円単位の追加負担が集中します。

負担そのものが消えるわけではありません。

誰が、どのような形で負担するかが変わります。

「社会保険料を下げる」という言葉だけからは、この分配はあまり見えません。

しかし政策を最後までたどると、広く分散していた保険料負担の一部を軽くする一方で、特定の薬を必要とする患者には新たな自己負担を求める、という構造が現れます。

その分配を、私たちは公平だと考えるでしょうか。


77成分で終わるのか

もう一つ、現在の77成分・約1,100品目だけを見て終わることもできません。

自民・維新の合意には、制度の施行状況を踏まえ、将来的に対象範囲や負担割合についてさらに検討することが書かれています。

2026年5月21日の参議院厚生労働委員会では、日本維新の会の猪瀬直樹議員が、現在の見直しを「小規模」として、対象範囲のさらなる拡大と負担割合の引き上げを求めました。

これは、「いつか拡大されるに違いない」という反対側だけの推測ではありません。制度を推進してきた維新の側からも、すでに次の拡大を求める議論が出ています。

もちろん、将来の拡大が決まったわけではありません。

だからこそ、現在の制度を「最初の77成分だけの話」として見るのも、「このまま必ずすべて保険外になる」と見るのも、どちらも早すぎます。

何が決まり、何がまだ決まっていないのかを分けて見ておきたいと思います。


法律は成立した。その後も制度設計は続く

ここまで、この政策がどのように作られ、何を変えようとしているのかをたどってきました。いったん確認しておきます。

  • 日本維新の会が「社会保険料を下げる」改革の一つとして、OTC類似薬の「保険適用除外」を提案したことを確認しました。

  • その後、自民・公明・維新の合意を経て政府方針に入り、現在の自民・維新政権の下で、「一部保険外療養」として法律になったことを確認しました。

  • 制度が固まる前から、医療者だけでなく、がん、難病、アレルギーなどの患者団体が、治療継続や受診、生活への影響を具体的に訴えていたことを確認しました。

  • 政府が制度を説明する理由の一つに、「医療用医薬品の処方を受ける人」と「OTC医薬品を購入する人」との「公平性」を挙げていることを確認しました。

  • 「慢性疾患には配慮する」といった政治の言葉が、制度設計の段階では、対象となる疾患や療養、薬の使い方、「年間おおむね50週」といった具体的な境界線へ変わっていることを確認しました。

  • 保険料の軽減効果は加入者一人あたり平均年間約400円とされる一方、追加負担は対象となる薬を必要とする患者に集中することを確認しました。

  • そして、現在の77成分・約1,100品目で見直しが終わるとは決まっておらず、制度を推進してきた側からも、すでに対象範囲や負担のさらなる拡大が提起されていることを確認しました。

ここまでで見えてきたのは、「社会保険料を下げる」という一つの言葉の裏側に、誰の負担を減らし、誰に新たな負担を求めるのかという選択があることです。

ここまで読むと、「もう法律になったのなら、何をしても遅いのでは」と思うかもしれません。確かに、制度の法的な枠組みそのものは成立しています。

しかし、制度のすべてが法律本文に書かれているわけでもありません。

厚生労働省は2027年3月の施行に向けて具体的な運用を検討しています。その過程で、8月6日から20日まで、「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた中間とりまとめ」について国民から意見を募集しました。

なお、この意見募集はe-Govの「パブリック・コメント」のページで受け付けられていましたが、手続上は行政手続法に基づく意見公募ではなく、「任意の意見募集」とされていました。

この意見募集では、中間とりまとめで示されたこうした線引きや、今後の運用について意見を届けることができました。たとえば、次のような論点です。

  • 「年間おおむね50週」という長期使用の基準は妥当なのか。

  • 季節性でも毎年治療を必要とする慢性疾患をどう扱うのか。

  • 「年間おおむね50週」という目安が、医師による医療上の必要性の判断を適切に反映できるのか。

  • 制度開始後、受診控えや服薬中断、重症化が起きていないかをどう検証するのか。

  • 将来、対象薬や負担割合をさらに拡大するなら、その前に患者や市民の意見を改めて聞くべきではないか。

  • 「低所得者に配慮する」とされているが、具体的に誰が対象になるのか。

この意見募集は、制度の専門家だけを対象にしたものではありませんでした。実際に薬を使っている当事者や家族、身近な人、市民として感じる不安や疑問も、意見として届けることができました。

制度をすべて理解してからでなければ参加できないのではなく、自分の経験や懸念を自分の言葉で伝えることも、制度について意見を届ける一つの方法でした。


「社会保険料を下げる」の続きを読む

もう一度、最初の言葉に戻ります。

「社会保険料を下げる」。

それだけを聞けば、魅力的に聞こえます。だから、その続きを追ってみました。

  1. 「社会保険料を下げる」。

  2. そのために医療費を削減する。

  3. 保険給付のあり方を見直す。

  4. OTC類似薬の薬剤費の一部を、保険給付の対象外にする。

  5. その分を、対象となる患者が「特別の料金」として支払う。

政治の短い言葉を、制度の最後までたどると、最初には見えなかった主語が現れます。

加入者全体では、保険料負担の軽減効果が生じる。その一方で、対象となる薬を処方された一部の患者には、新たな「特別の料金」が生じる。

私は、社会保険料を下げること自体に反対したいわけではありません。

ただ、「下げます」と言われたとき、何を削ることで下げるのか。

誰の負担を軽くして、誰に新しい負担を求めるのか。

その負担の移動まで含めて、政策を見たいと思います。

「公平性」という言葉についても同じです。

誰と誰を比べた公平なのか。その比較から、誰がこぼれているのか。

法律はすでに成立しました。でも、その法律が私たちの生活の中でどんな形になるのかは、まだすべて決まったわけではありません。

私も、8月20日まで行われたこの意見募集に、意見を送りました。


今もできること

ここまで読んで、この制度について何かしたいと思った方へ。

厚生労働省の中間とりまとめへの意見募集は終了しました。ただ、この制度について声を届ける方法がすべてなくなったわけではありません。現在も続いている署名に参加すること、制度について知ったことを共有すること、今後の制度設計を追うことができます。

すべてをする必要はありません。内容を読んで、自分が賛同できるもの、できそうなものを選んでください。

なお、以下の署名には、署名が始まった時点の制度案や試算が残っているものがあります。現在の制度内容については、本文で参照した厚生労働省資料と併せて確認することをお勧めします。

保団連の「追加負担をやめてください」署名

全国保険医団体連合会(保団連)は現在、「ロキソニンやアレグラなどの薬の追加負担はやめてください」というオンライン署名を行っています。

要求しているのは、今回の77成分・約1,100品目について、新たな「特別の料金」を課さないことです。2026年8月21日現在もChange.org上で署名を受け付けています。

難病患者から始まった署名

魚鱗癬という指定難病の当事者から始まった、「治療を必要とする全ての人が使用する薬を、今後も保険適用とすることを政府に求める」というオンライン署名も、現在も続いています。

この署名は2025年3月、現在とは制度案が異なっていた段階から始まったものです。そのため、署名本文には当時検討されていた「保険適用除外」を前提とした記述も残っています。

それでも、治療に必要な薬への保険給付を維持してほしいという署名の要求自体は現在も掲げられており、2026年8月にも活動の更新が行われています。

日本アトピー協会の署名

この記事でも紹介したNPO法人日本アトピー協会の、「アトピー治療に必要な薬をこれからも保険適用にしてください」という署名も、2026年8月21日現在、引き続き受け付けています。

アトピー性皮膚炎では、症状が改善した後も再燃を防ぐため治療を続けることがあります。同協会は、外用薬や保湿剤などを長期間必要とする患者の立場から、保険給付の継続を求めています。

こちらも2025年に始まった署名なので、署名本文には当時の「保険適用除外」案を前提とした記述があります。現在決まっている制度そのものの説明としてではなく、アトピー患者側から出されている要求として読んでください。

知ったことを共有する

そして、署名や意見提出だけができることでもありません。

この制度は、「OTC類似薬」「一部保険外療養」「特別の料金」といった、普段の生活からは少し距離のある言葉で議論されています。

けれど、その対象には、痛み止め、アレルギー薬、保湿剤、便秘薬など、身近な薬が含まれています。

制度を知ったこと。自分が使っている薬が対象になるかもしれないこと。2027年3月の施行に向けて、今後も制度設計が続いていくこと。

それを誰か一人に伝えることも、一つの参加の仕方だと思います。


更新履歴

  • 2026年8月14日 記事公開

  • 2026年8月21日 意見募集終了後の状況に合わせて更新

@sallypenguin
サリーといいます。普段はBlueskyに生息しています。 bsky.app/profile/sillysallypenguin.bsky.social