
2026年9月27日まで、厚生労働省が「健康保険法施行規則等の一部を改正する省令案」についてパブリックコメントを募集しています。
案件番号は495260169。公示日は8月29日、締切は9月27日23時59分です。
9月25日現在、e-Govでは「募集中」となっています。「命令などの案」として掲載されているのは「概要」1点で、「関連資料、その他」には追加資料が掲載されていません。
最初に一つ整理しておかなければならないことがあります。
今回のパブコメで、高額療養費制度の自己負担上限を一から決めるわけではありません。
ここを混同すると、今回何について意見を求められているのかが分からなくなります。
今回初めて、負担上限を決めるわけではない
高額療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が一定の上限を超えた場合、その超えた額を支給する制度です。上限額は年齢や所得に応じて定められています。
今回の制度見直しは、2026年8月と2027年8月の2回に分けて施行されます。
2026年8月からは、月額の自己負担上限の見直しと、新たな年間上限の導入が行われました。
さらに2027年8月からは、所得に応じた負担をより細かくするため、所得区分が細分化されます。
ただし、2027年8月からどういう所得区分にし、自己負担限度額をどうするかという制度の大枠を、今回のパブコメで初めて決めるわけではありません。
ここが、今回の案件を読むうえで少し分かりにくいところです。
制度の施行は2段階ですが、そのための法令整備に関して、今回までに確認できるパブリックコメントは3件あります。
①まず2026年6月、2026年8月・2027年8月の制度見直しの大枠を定める「健康保険法施行令等の一部を改正する政令案」について、パブリックコメントが行われました。
この政令案には約4,300件の意見が提出され、7月29日に結果が公示されました。案の修正はなく、同日に「健康保険法施行令等の一部を改正する政令(令和8年政令第240号)」として公布されています。
②同じ6月には、この政令案と並行して、2026年8月施行分に必要な省令上の整備についても別のパブリックコメントが行われました。
こちらには約980件の意見が提出され、7月29日に案の修正なしで「健康保険法施行規則等の一部を改正する省令(令和8年厚生労働省令第117号)」として公布されています。
③そして今回、8月29日に公示されたのが、2027年8月施行分に必要な省令上の整備についてのパブリックコメントです。
つまり、こういうことです。
1. 制度の施行は2段階
2026年8月施行
2027年8月施行
2. 今回までに確認できるパブコメは3件
① 2026年6月:制度見直しの大枠を定める政令案 ← 済
② 2026年6月:2026年8月施行分の省令案 ← 済
③ 2026年8月:2027年8月施行分の省令案 ← 今回
今回のパブコメは、この3件目です。
したがって、2027年8月からの自己負担限度額や所得区分そのものを一から決めるパブコメではありません。
すでに①のパブコメを経て公布された政令第240号で定められた2027年8月施行分を受けて、省令上の規定や様式をどのように整備するのか。
それが、今回の意見募集の位置づけです。
今回、何を変えようとしているのか
厚生労働省の概要によれば、高額療養費の支給要件や支給額などは政令で定められ、その一部は省令に委任されています。
そして今回の省令案では、2027年8月から高額療養費の自己負担限度額に係る所得区分が細分化されることなどに伴って、関係規定の「引用条項の整理」「読替え」「その他所要の規定の整備」を行うほか、「資格確認書等に係る様式について所要の改正」を行うとされています。施行期日は2027年8月1日です。
かみ砕くと、所得区分が変わることで、これまでの条文が参照していた政令の条番号などを新しい制度に合わせて直し、制度ごとに必要な言葉や数字の置き換えを行い、それに関連する規定や書類の様式も整えるということです。
ただし、「その他所要の規定」とは具体的に何を指すのか、「資格確認書等」のどの書類をどう変えるのかまでは、現在公表されている概要からは分かりません。
ここは慎重に読んだ方がよさそうです。
所得区分が変われば、省令中で政令の所得区分を参照している条文を整理する必要はあります。
しかし、概要にはそれだけでなく、「その他所要の規定の整備」と「資格確認書等」の様式改正も含まれています。
したがって、現在確実に言えるのは、政令第240号の2027年8月施行分を受けて、関係する省令上の規定や資格確認書等の様式を改正するというところまでです。
その中身がすべて機械的な条番号整理なのか、被保険者の手続や制度利用にも関係する変更を含むのかは、現在公表されている概要だけではすべて確認できません。
「概要」だけで、何を決めようとしているのか分かるだろうか
今回の意見募集要領では、意見募集の対象そのものが「健康保険法施行規則等の一部を改正する省令案について(概要)」とされています。意見には理由を付し、様式は自由です。
一方、現在の概要からは、どの条文をどのように書き換えるのか、「その他所要の規定の整備」とは具体的に何なのか、「資格確認書等」の「等」には何が含まれるのか、その様式のどこをどう変更するのか、までは分かりません。
この概要だけで、私たちは何について意見を求められているのかを十分に判断できるのでしょうか。
同じ疑問は、6月にも出ていた
この疑問は今回初めて出てきたものではありません。
6月の先行省令案パブコメでは約980件の意見が提出され、厚生労働省が内容別に整理した結果の中には、「具体的な手続内容や患者・被保険者に生じる負担が示されていない」「現行制度との比較資料がないため変更内容を判断しにくい」といった趣旨の意見も掲載されています。
また、「必要な読替えや申請手続の方法を定めるほか、所要の規定の整備を行う」という説明だけでは改正内容が分からず、賛成も反対もしようがないという意見も掲載されました。
これに対して厚生労働省は、この意見公募手続について、行政手続法などに基づき、意見提出期間や提出意見を考慮する期間などを設定して実施していると回答しています。
しかし、ここには少し引っかかるところがあります。
意見者が問題にしていたのは、意見募集の期間が適切かどうかではありません。そもそも、意見の対象となる改正内容が具体的に示されているのかということです。
行政手続法第39条第2項は、公示する命令等の案について、「具体的かつ明確な内容」であることを求めています。
政府自身も、この規定について、条文案や新旧対照表でなければならないわけではなく、要綱や概要という形式でもよいと説明しています。
ただし同時に、公示する時点で最終的に定めようとしている事項が具体的かつ明確に示されている必要があり、定めようとする内容の一部しか示していないものや、内容の全部が示されていない概括的なものは不十分だと説明しています。
つまり、問題は「概要という形式だから駄目」なのではありません。
その概要で、最終的に何を定めるのかが具体的に分かるかどうかです。
そう考えると、6月のパブコメで示された「具体的な改正内容が分からない」という疑問に対して、「行政手続法などに基づいて意見提出期間等を設定して実施している」と答えるだけでは、少なくとも行政手続法第39条第2項が求める案の具体性・明確性についての疑問には答えていません。ここは強く言及しておきたいです。
そして今回も、「その他所要の規定の整備」「資格確認書等に係る様式について所要の改正」とされる一方、その具体的な内容までは公表されていません。
だから私は今回も、何を最終的に定めようとしているのかを、意見を出せる程度に具体的に示してほしいと考えています。
これは、省令の具体的な規定内容そのものへの意見とは少し性質が異なります。
しかし、今回の概要では何を最終的に定めようとしているのか十分に判断できない、と指摘するのであれば、行政手続法第39条第2項が命令等の案に求める「具体的かつ明確な内容」という要請は、その理由を支える重要な根拠になります。
そもそも、なぜ高額療養費を見直すのか
ここで、その後ろにある制度見直しについても最低限確認しておきます。
厚生労働省は、高齢化や高額薬剤の普及などを背景に高額療養費が増加する中、制度を将来にわたって維持するためには見直しが必要だと説明しています。
今回の制度設計では、低所得者に配慮しつつ、主に療養期間が短い人に追加負担を求める一方、多数回該当の金額を維持し、年間上限を設けるなどして、制度の持続可能性と長期療養者・低所得者へのセーフティネット機能の強化を両立させるとしています。
一方で、自己負担限度額を引き上げること自体には、以前から強い懸念も示されています。
全国保険医団体連合会(保団連)は、2026年1月から限度額引上げの撤回を求め、重い病気の患者への負担増が治療中断や受診抑制につながるおそれがあることなどを問題にしてきました。
さらに2026年9月15日、保団連は2027年8月からの引上げについて厚生労働大臣に再検討を求めました。このとき厚生労働省側から示された、2027年8月の引上げによる保険料軽減効果は、加入者1人当たり年間約400円です。保団連は、この程度の保険料軽減のために患者の自己負担限度額を引き上げることが妥当なのかと問題提起しています。
こうした制度見直しの大枠そのものを対象に意見を募集したパブリックコメントは、前章で扱った①の6月の政令案パブコメで、2026年7月5日いっぱいで終了しています。
その後、7月29日に政令第240号が公布されました。今回の省令案は、その政令で決まった2027年8月施行分を実施するための整備です。
ただ、今回の省令が実施しようとしている制度について、どのような懸念が以前から示されてきたのかは、背景として押さえておきたいと思います。
その6月の政令案パブコメには、保団連が警鐘を鳴らしたように、自己負担上限の引上げによって治療継続が難しくなるのではないか、治療開始直後は多数回該当がまだ適用されず最初の数か月に負担が集中するのではないか、といった懸念が掲載されています。
厚生労働省はこれに対して、多数回該当の据置き、年間上限、低所得者への措置などを挙げ、制度の持続可能性とセーフティネット機能の両立を図る見直しだと説明しています。また、制度改正が実際の受診行動にどう影響するかは今後検証するとしています。
なお、約4,300件すべてが反対意見だったという意味ではありません。公表された結果資料には、所得区分をさらに細分化すべきだという意見や、多数回該当にも応能負担を反映すべきだという意見など、異なる方向からの意見も整理されています。
ここで争われていたのは、「高額療養費制度が必要かどうか」という単純な二択ではありませんでした。
そのセーフティネットを維持するために、誰に、どの時点で、どの程度の負担を求めるのか。
そこに、制度設計上の論点がありました。これらの論点についてはあくまで背景として押さえておいてください。この議論と、いま募集されている省令案への意見は分けて考える必要があります。
案が曖昧なら、何も意見できないのか
さて、今回のパブコメに射程を戻します。
前章で触れたとおり、今回は、所得区分が変わることで、これまでの条文が参照していた政令の条番号などを新しい制度に合わせて直し、制度ごとに必要な言葉や数字の置き換えを行い、それに関連する規定や書類の様式も整えるという趣旨であることまでは分かります。
しかし概要からは、どの条文をどのように書き換えるのか、「その他所要の規定の整備」とは具体的に何なのか、「資格確認書等」の「等」には何が含まれるのか、その様式のどこをどう変更するのか、までは分かりません。
ここで一度、発想を変えてみます。
現在分かっている内容について直接意見することはできます。
分からない部分について、具体的な説明を求めることもできます。
さらに、現在の制度や過去の法整備から合理的につながる範囲なら、「この変更がもし○○を含むのであれば、こういう不利益が起きないか」と考えることもできます。
この記事では、
今回公表されている変更 → 現在の制度や過去の法整備 → そこから考えられる被保険者の不利益
と、一段ずつつなげられるものだけを拾います。
途中のつながりを説明できないものは、無理に論点にしません。
ここから先に挙げるのも、「こう書いてください」という例文ではなく、自分の意見を考えるための材料です。
所得区分が増えるとき、切替えはどうなるのか
厚生労働省は、2027年8月まで施行を待つ理由について、所得区分の細分化に伴って、保険者等のシステム改修、レセプト*の記載事項変更、それに伴う審査支払機関や医療機関等のシステム改修などに一定の期間が必要だからだと説明しています。
*レセプト(診療報酬明細書。医療機関や薬局が、保険診療の内容や費用をまとめて保険者に請求するための書類)
また、先行パブコメでは、所得区分細分化後の具体的な事務運用や区分の呼称について、今後通知等で示すと回答しています。
つまり、2027年8月の変更は、条文の中だけで完結するものではありません。実際の保険者や医療機関のシステム・事務にもつながります
だからといって、今回の変更で必ず誤った所得区分が使われるとは言えません。
ただ、私は次のような点は確認したいと思います。
新しい所得区分は、患者や医療機関からどのように確認できるのか。
旧区分から新区分へ切り替わる時期に、情報の不一致が起きた場合はどう訂正するのか。
誤った区分が使われた場合、窓口負担や給付に不利益が出ない仕組みになっているのか。
新旧区分の対応関係は、施行前に分かりやすく示されるのか。
この中で、自分が重要だと思う点があれば、それが一つの論点になります。
もし新しい手続が加わるなら、給付漏れは起きないか
現在の概要には、今回の改正によって患者本人に新しい申請や書類提出が必要になるとは書かれていません。
ここは、ないものを想像で補ってはいけないところです。
ただし、高額療養費という制度では、実際に「申請」が制度利用の壁になり得ることは、先行するパブコメでも論点になっています。
6月の省令案パブコメでは、年間上限について、申請手続の簡素化・自動化や、申請漏れの防止を求める意見が出されました。
厚生労働省は、保険者が実務上可能と判断した場合には、本人からの申請を不要にする「自動給付」も差し支えないと回答しています。
これを踏まえると、今回考えられる問いは、
「その他所要の規定の整備」に、新たな本人申請や証明書取得は含まれるのか。
含まれるなら、被保険者本人に新たな手続負担を求めることにならないか。
本人が申請方法を知らなかったことだけで、本来受けられる給付を受けられなくなることはないか。
保険者間や医療機関との情報連携で省ける手続はないか。
といったところです。
ここでも、「新しい申請が増える」と断定するのではありません。
増えるのであれば、何が問題になり得るのかを考える。
その順番です。
資格確認書等の様式が変わるなら、今持っている書類はどうなるのか
今回の概要には、資格確認書等の様式を改正するとあります。
一方、具体的にどの様式をどのように変えるのかは示されていません。
様式変更そのものは珍しいことではありません。
そして過去の健康保険法施行規則などの改正では、様式を変える際、旧様式で既に使用されている書類を新様式によるものとみなしたり、旧様式の用紙を当分の間使えるようにしたりする経過措置が設けられた例があります。
限度額適用認定証や限度額適用・標準負担額減額認定証も、こうした経過措置の対象になった例があります。
つまり、「今持っている書類をどう扱うか」は、様式変更時に実際に法令上処理されてきた問題です。
ここから考えられるのは、
今持っている資格確認書等は、そのまま有効なのか。
再交付や交換が必要になるのか。
本人による申請や返却は必要なのか。
切替えが遅れた場合でも、受診や高額療養費の適用に影響しないか。
旧様式と新様式が併存する期間があるなら、医療機関側で混乱しないか。
といった点です。
今回これらが実際に問題になるかどうかは、現在の概要だけでは分かりません。
だからこそ、もし問題になるなら、自分は何を避けてほしいのかを考える余地があります。
私は、完成した例文を載せない
最後に、この記事で意図的にしていないことがあります。
「この文章をそのまま送ってください」という完成したパブコメの例文を載せていません。
e-Govは、パブリックコメントについて、提出された意見の「量」ではなく「内容」を考慮する制度だと説明しています。同じ内容の意見が多数提出されても、その数自体が考慮対象になる制度ではありません。
だからといって、同じ結論になってはいけないわけではありません。
同じ資料を読めば、同じ問題を重要だと考える人もいるでしょう。
ただ私は、この記事を読んだ人に判で押したような同じ文章を書いてほしいとは思っていません。
この記事で示した論点を使うのであれば、自分が重要だと思った部分を選び、自分なりの理由で書く。
この記事にはない問題に気づいたのであれば、それを書く。
異なる知識や経験を持つ人が、それぞれ別の角度から案を検討する。
集合知で個人の死角を多角的に補い、案の問題点や見落としをさまざまな角度から示す。
その方が、この制度の使い方として意味があると私は思っています。
私も、丸写しできるパブコメの「答え」を置くのではなく、なるべく対象となる案を解体し、その前にいくつかの「問い」を置けるよう思案してみました。
このやり方がどこまで効果的なのか、私にもまだ分かりません。今回のパブコメ一つで何かが急速に変わるとも、正直なところ期待していません。
それでも、この記事を通してお伝えしたいことは「自分のパブコメ」を書く練習を、ちょっとずつ一緒にしていきましょう、ということです。
今回の意見募集要項で求められているのは、理由を付した意見です。様式は自由です。
この記事に出てきたことを全部書く必要もありません。
自分が一番気になる一つだけでもよいと思います。
私はこの記事で、
何がすでに決まっているのか。
何が今回の対象なのか。
何が現在の資料から分かるのか。
何がまだ分からないのか。
そして、分からないところについて、どこまでなら根拠を持って考えられるのかまでを整理したかったのです。
その先の、
「では、私はどう考えるか」
は、それぞれの人のところに残しておきたいと思います。
再度お伝えしますが、こちらが今回のパブコメの入り口です。
案件番号は495260169。公示日は8月29日、締切は9月27日23時59分です。
補足資料:Blueskyフィード「パブコメ観測所」のご紹介
最後に、Blueskyを活用されている方にご案内です。
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