この窓から見る景色は桜の舞い散る春、空が青く草木生い茂る夏、木の葉が枯れ始めた秋、雪景色の冬、そしてまた桜の咲く春と季節が一巡した。部屋の外からテチテチ歩く音がする。今日も君が来るのだ。ドアが空いた。やはり君だった。
「調子はどう? 」
「まぁまぁかな。」
上手く笑えず頬が引き攣る。どんなに悪天候だろうが、予定が詰まっていようが必ずどこかで時間を作って毎日君はお見舞いに来てくれる。その優しさが今の私には辛かった。「桜、綺麗だね。君と春にお花見したこと覚えてる?君の作ったお弁当美味しかったなぁ」と言ってスマホにはいつしか私とお話見た時のお弁当の写真が映し出されていた。
「君の作った卵焼き大好きなんだ。あまじょっぱくてふわふわしてる。また食べたいな」
「そうだね」
いつ治るか分からないし、治る保証もないので絶対作るよ!なんて言えない。ベッドの隣の床頭台にはいつか君と行きたいんだ!と言って持ち込んだグルメや旅行の雑誌が山積みになっていた。これを見る度に看護師さんが「サムちゃんと早く遊びに行けると良いですね」と言われてしまう。
「今度検査なんだよね?君にこれあげるね」と言って白い袋から取り出したのは紐がピンクで桜の刺繍がされたお守りだった。
「これね、二人で1つなんだよ」
サムが持っているのは紐の部分が青だ。
「心願成就って言って心の中で強く願ってることに良いお守りなんだよ。ぼくはね、また君と一緒にお出かけしたいんだ」と言って私の手にお守りを乗せた。
「君が病気治って一緒にお花見できるって信じてるよ!」
「サム…」
「君が治るまでお見舞い来るからね!」とにっこり笑った。
「うん…治療頑張るね」と言って小さなお守りを握りしめた。少し前まで君の重荷になってるんじゃないかとか色んな負の感情が渦巻いていたのがバカみたいだった。あんな屈託のない笑顔で応援されたら完治するしかない。
そして次の日検査があり、結果は前より良くなっているとの事だった。このまま治療を続ければ退院もできると言われた。早速サムのくれたお守りパワーなのかな。退院もできるかもしれないと言われて、サムが置いていったグルメ雑誌たちを見てみることにした。魚介、ピザ、ステーキ、アフタヌーンティーなどサムの好きな物がたくさんリストアップされている。サムらしいなぁ。次の雑誌は旅行雑誌。桜の名所が特集されている。1箇所付箋が貼られている。気になったのでそのページまでめくると桜が有名な神社のページだった。あれ?何か見覚えがあると思いお守りを見て見るとその神社の物だった。一人で私のために買いに行ってくれたのかな?そう思うと、サムの願いを叶える為に私は1日でも早く退院しなくてはならない。早く一緒にお花見しようね。
それから私の体調はかなり回復をした。医師も驚いていた。そこからリハビリが始まった。その事をサムに話したらとても喜んでくれた。
「君と一緒に色んな所に行ける日が近いね!」
「頑張るね」
そこからリハビリの毎日が始まった。心が折れそうになることもあったが、私を信じてくれたサムのためにも頑張るしかないのだ。こうして季節はあっという間に変わって行った。
そしてまた窓から見える景色は一巡して桜が満開になった。でもこの窓から見るこの桜も今日で最後だ。念願の退院の日なのだ。病室を出て、会計を済ませて病院の外に出る。外の空気を吸うのは何年ぶりだろうか?ポカポカとした陽気と少し冷たい空気で春だなと分かり、やっとこの桜の木の下に立ったことを実感する。
「あ〜!君だ!」
声のする方を見るとサムが立っていた。「サム!」
思わず駆け寄って、抱き締めた。ふかふかモチモチでとても優しい感触。
「退院おめでとう!」と言って頭をポンポンと撫でてくれた。とても優しい手だった。
「私を信じて待ってくれてありがとう」
「君なら元気になると信じてたよ。早くお花見行こうね!君の作った卵焼き食べたいな!」
「作るね!」
「うん!」
そうして2人は足取り軽く桜の木の下を歩いて行った。
あとがき
書き出しの文章が思いついたのは11月くらいでした。時間が経つのはあっという間ですね。