夜中、焼鳥屋にふらりと寄る。酒やめたせいで、そういうの久しぶりで、すごく癒された。注文したものを待ちながら手持ち無沙汰に店内のざわめきを聞く時間も、食事を終えて外に出ると見えた寒い街の空に光る月も、いいなあと思った。
どうせやめたんだから他でこういう心身を緩める時間が取れればいいと思うけれど、まだまだ難しい。つくづく感じるが、酒をやめるというのは、ほとんど全人格を作り変える作業だ。
癖で、締めを食べるためになか卯へ迷ったが、全然いらなくて切なかった。
飲んでいるあいだの食事量というのはちょっと人間離れしたものだなと、今になってわかる。
店を出るとちょうど、駐車場に一台の軽バンが入ってきた。中年のなんとなく冴えない男が2人と、女が1人、降りる。どんな関係で、何をこんな時間に揃ってなか卯に、とあれこれ考えながらすれ違った。年をとってもああいう繋がりがある人生は羨ましいな、と思う。
先頭を歩く男の佇まいが、格好良かった。痩せて老けた顔に不似合いの、まだらに茶色く染まった長髪。なんとも野暮ったく、その野暮ったさの、無骨というよりは怠惰な、男っぽさ。風俗ライター的佇まいだった。
こういう風体の男に、風俗ライターという例えは、俺のオリジナルではなく、ダイアンが言っていた。粉浜商店街という大阪の下町の、気ままな商売をしているリサイクルショップにロケで行き、商品の服を着込んだ自分の姿を津田が風俗ライターと例えていた。
俺はその手の男を「パチプロっぽい」と表現することが多かったのだが、これを見て風俗ライターのほうが的を射ていると思ったので、以来そうやって言うようになった。こういう男の人が俺はなぜかかなり好きで、自分も真似たいと思うのだが、このアイテムであなたも風俗ライター!みたいな特集を組んでくれるファッション誌があるはずもないので、なかなか真似のしようがない。というか、たぶん、あれは服装だけ真似てもどうしようもない。顔つきに刻まれた年輪のようなものがいる。
帰り道に、15年近く前に放送されたブラマヨのずぼりラジオを聞きながら帰る。ちなみにブラマヨ吉田の私服は、すぐれて風俗ライター的だと思う。だから聞いていたというのでもなく、たまたまだけど。
薄毛の治療法を独創して一稼ぎするために、あんな方法はどうだ云々と喋り明かしている。逆立ちを続けて頭に血行を促進するという小杉のアイデア。試してみろという吉田に、でもこれが成功したとしてもどうやって金にするのかと小杉が言うと、吉田は「袋とじや、開けな立ち読みできひんやんけ」と応える。なにということはないやりとりだが、口ぶりなのか、この場面だけでも妙に面白い。ラジオブースに流れている時間の質のようなものが、濃密に出ている。うだつのあがらない兄ちゃん2人が、街角で喋っているのを盗み聞いてる感じがする。