2021年8月
どよんとした空気がここ数日立ち込めていた。台風の風が吹き荒んだあと雨が続いているからか、夫もわたしも沈んでいた。もう色んなことがどうでもいい。夫はきつそうにそういって、わたしにも、それが伝播し、全てがどうでもよくなる瞬間が訪れては戻りを繰り返した。冷や汁を作ろうと思ったのに胡麻がなくてスーパーにはしる。真っ黒な服を着て。
冷や汁は無事に美味しくできた。
夫は横になった。わたしはホワイトセージに火をつけた。真白いけむりが立ち登る。
窓を開けて全部とっていってもらおうと夫が言った。私たちは、どちらも上下真っ黒の服を着て、手を合わせた。そう、今日はお盆だった。
夫は少しして今描いている絵の続きを描き始めた。いつもは邪魔しないようにと自分の部屋に行くけれど、なぜか今日はぴたりとキャンバスの側にいた。すぐに行こうと思ったけれど描いているのを見ていると目が離せなくなったのだ。まっくろい闇に浮かぶ真っ青の薔薇、黄色に青を重ねてもなかなか消えなかったのに、白を黒で消すことは簡単なんだということも見ていてよくわかってしまった。
「光は闇に簡単に消されてしまうのか。」わたしはそう言った。だから意識して明るい方に居なければならないんやね。というと夫はそうよ、と言った。
すぐ闇に潰されてしまわないように。
昔にカネコアヤノの光の方へを恋人だった夫に送ったことを思い出した。
隙間からこぼれ落ちないようにするのは苦しいね。だから光の方光の方へ
ずっとその絵を見ていたら真っ青な薔薇は漆黒の宇宙に浮かんでいるようだった。青い薔薇は、夢叶うという花言葉だという。
ぽっかりと闇に紛れたわたしたちも、一筋の光を信じたいのだ。