タグにメイキングと大層なことを書いたが、SKIMAでいただいたご依頼を作っているときになにを考えていたかという覚書である。クライアントさんの許可は得ている。つらつらと長くなるのでよろしく。
完成品は後程このページにも掲載するが、まずはクライアントさんであるヤマダさんの紹介とあわせてリンクを載せておく。
今回いただいたのはどらだらキャットというヤマダさんのオリジナル芸人コンビをモチーフにした招き猫のアニメーションである。個人観賞用だ。手をこまねかせて、小判が降るようなおめでたそうなモーションをとのご依頼を受けた。
ヤマダさんからのご依頼の時点で招き猫のイラストはあった。こちらだ。
どらだらキャットについて私が知っていることは多くない。芸人人生は長いが安定して売れている訳ではないこと。山あり谷ありのいきさつがあること。十年来のファンがいること。片方が潔癖症であること。
今回特に気になったのは十年来のファンがいることである。古参ファンが見て「わかってるじゃん」とニヤリとするものに仕上げたくなった。そこでプロフィール、できれば好物やキーアイテムを質問することにした。
早速コンビがどういうものか、サバトラさん・マダラメさんのキャラクターシートと定番ポーズをいただいた。イメージカラーから好物、要素まで入れたまとめもだ。仕事が早い。
定番ポーズでどらだらキャットは外側の手を大きく上げ、反対側の手を小さく動かしている。あわせて外側の足も上げていた。これは絶対アニメーションに入れようとこころに決める。要素から招き猫の手の右上げ左上げにこだわりがあるのを確認する。反対側の手の動きは控えめにした方がいいだろう。
そうするといただいた時点では内側の手があったおなかが寂しくなる。招き猫と言えば小判だが、ネクタイにすでに小判がある。ここでプロフィールを確認。マダラメさんのたい焼きはいいがサバトラさんのどら焼きは正面から見るとちょっとわかりにくい。しるこサンドは著作権の関係で外す。あとは天むすと魚である。
名古屋出身のふたりにえび天はいい。魚も恵比須様を連想して縁起がいい。魚が好物だというマダラメさんの趣味はサバトラさんの釣った魚を料理することである。コンビ感が強くなるので魚の色味は全体の色数を抑えるためにもサバトラさんカラーにすることを決める。
ラフはこんな感じだ。

マダラメさんの特徴的な目から描き始めて、最初に決めた64×64pxでは画面が狭いことに気が付く。ヤマダさんにお願いしてサイズを100×80pxにしていただいた。
ドット絵の最も悩ましいところは顔だと思っている。顔を描いて、左右対称にしようとしてお笑い芸人ならちょっと内側を向いていた方がいいのでは?と考える。古いイメージかもしないがお笑い芸人がひとつのマイクに向かってしゃべるとき、少しお互いを向き合うところがすきなのだ。左右対称より愛嬌があるのでほんの少し内側を向けた。
どらだらキャットの好物の話に戻るのだが、どら焼きとたい焼きは色味が似ている。小判もちょっと似ている。だったら小判だけよりどらだらキャットの好物も降ってきた方がめでたくて嬉しくないだろうか?
全体のシルエット確認を含めて前述のラフを送り、ラフ段階での設計思想もついでに伝えた。経験上、「どうしてそうしたのか」を伝えると依頼する側も直したいときに「どうして直したいのか」なるべく伝えてくれるようになるからだ。
ヤマダさんは丁寧に直したいところを理由付きで教えてくれた。修正が大変楽だった。左側という単語が向かって左側かキャラクターの左側かという言葉上の迷いはあったものの、全体を通して大きな祖語はなかった。
描きこんでまた画像を送る。修正点を確認してもらう。モーション作業へ移る。
モーションは外側の手を大きく印象的に動かすことは決定済みだ。前述のとおり内側の手と外側の足もどらだらキャットの決めポーズに合わせて動かす。普段だったら全体を縮ませた待機モーションを作るのだが、招き猫の形をあまり崩したくない。というわけで元気に跳ねてもらった。まっすぐ上ではおとなしいのでほんのちょっと外側にずれることにする。
最初は外側の手の動きが小さくて、跳ねているモーションに動きが負けてしまったので動かしながら修正した。顔もちょっといじりたくなる。マダラメさんは目を開けているので閉じればいい。サバトラさんは目を開けるとちょっと特徴的な顔になるので開眼してもらう。猫なので瞬きのように滑らかにするのではなくてパッと変わる方が"らしい"。作りながらマダラメさんが目を閉じてるときにサバトラさんが目を開けてるのもちょっといいと思った。
サバトラさんは長髪なので降りるときに髪を広げる。さらさらというよりもったりとした雰囲気を崩さないように気を付けた。
アニメーションの確認が終わったら背景だ。

小判をメインにたい焼きとどら焼きを置いていく。色味は控えめに三色にした。小判を検索して見たところ真ん中に文字を入れてもよさそうだったので"招"を入れる。"福"を描こうとしてお笑いコンビなら"笑"では?と思い直した。
確認をとりながらエフェクト作成に入る。

エフェクトは遠景・中景・近景があるとそれっぽいと大昔に読んだ記憶があったので遠景から作る。中景までつくって、近景があんまり動くとメインの二人を食ってしまわないか心配になってきた。
ついでに背景を黒っぽい差分も用意した。あまり手間をかけすぎないように紺色のレイヤー濃度を調整して乗せた。これは単に趣味である。背景の色が暗いほうが手前の二人が映えるかな、くらいの気持ちだ。
ヤマダさんからありがたくも形がかわいいので大きいどら焼きやたい焼きが降ったほうがいいのでは?という意見をいただく。あと暗色の背景の色味が暗すぎたのでその辺の指摘もいただく。ずっと見ていると分からなくなるので本当に助かった。ドット欠けにも気づいてもらって頭が上がらない。
そうして出来上がったのがこちら。原寸大の背景暗色と4倍サイズの明色背景。


背景の小判の耳が動いても面白かったなと思うが、金額以上の仕事をしすぎてはいけないとブレーキをかけた。
今回は資料がそろっていたのでヒアリングにかける時間をほとんど全部作業時間に回した。おかげさまで凝りに凝ったドット絵アニメーションを作成できた。喜んでもらえて安心した。なんだかさっき見たらCHEER!が入っていて怯えている。
ご依頼を受けて作るものは大変楽しい。アニメーションは特に後から修正すると大変なので細かく確認をとりながらなので作業の区切りもはっきりする。クライアントさんからすると通知がにぎやかかもしれないと心配になった。次回から最初に言っておこうと思った。
ここで記事を終わろうと思ったのだが一応窓口のリンクを貼っておく。ちゃんと宣伝もしなさいと自分の中の大人の部分が指摘するのだ。大変だね大人って。
なんで阿修羅像?と思うかもしれない。私もそう思う。家族にどんなドット絵があったらすごいと思うか聞いたら阿修羅像だったのだ。うん、まあ、確かにいつ見てもインパクトがある。