卒業シーズンなので保育園の卒園式でのエピソードを書く。
うちの保育園の卒園式では卒園する園児が1人ずつ順番に将来の夢を発表するというコーナーがあったので、本番の前日かなにかにそのコーナーの練習をしましょうということになった。
わたしはその頃から絵を描くことが好きだったので、漫画家になりたいって言うぞ。と心に決めていた(お絵かき好きの子供あるある)。
リハーサルが始まり、出席番号が最初のIちゃんが「大きくなったら画家になりたい」と言った。この子とは自由時間によく一緒に絵を描いていたので、わたしもうんうんなるほどと思って聞いていた。しかし、ここでなぜか次のRちゃんも「画家になりたい」と言ったのである。これには違和感があった。Rちゃんがお絵かきが好きだなどというイメージはこれっぽっちもなかったのだ。どちらかというとドッジボールとかで活躍するタイプの人で、幼心にアウトドア派の子なんだなという認識だった。
そうしたところ、担任のたぁ先生が突然怒り始めてストップをかけた。
「みんな画家、画家って!そんなに画家になりたいんですか!ガカカカカーなんですか!」
いや、ガカカカカーではないだろ。わけがわからないと思うが本当にこんな感じでキレていた。意味不明な上に理不尽すぎる。(書いてて思い出したけど「女の人の裸を描きたいの?」みたいなことも言っていた気がする。)別にみんな画家になりたくたっていいじゃん。たしかにわたしもRちゃんが画家になりたいなんて本当かな?とは思ったけど密かに抱いていた夢だったのかもしれないじゃん。怒るなよ。
大人になった今考えても完全にこの状況で怒っているたぁ先生がおかしいと思うのだが、幼く純粋なわたしはビビっていた。
それまでの保育園生活の中で、わたしは明らかにたぁ先生に嫌われていた。どうもたぁ先生はわたしのおとなしいところや利発さ(長所では?)が気に食わなかったと見えて、跳び箱が飛べないとかてるてる坊主の作り方がおかしい(?)とか子供らしくない語彙を使ったとか何かにつけてしょっちゅう怒られたり嫌味を言われたりしていたのである。可哀想に。
というような日々の経験もあり、この流れでわたしが漫画家(厳密には画家ではないのだがまあ画業なので同じカテゴリの職業と考えてよいだろう)を挙げたらまたたぁ先生が怒り出すに違いない。と思ったので、わたしは将来の夢をでっちあげてやり過ごすことにした。
たぁ先生を刺激しないためにはやはり子供らしい回答をすべきだろう。と考えて、子供が将来就きたい職業ランキング女の子版の殿堂入りである「お花屋さん」と「ケーキ屋さん」の2択から「ケーキ屋さん」を選んだ。「ケーキ屋さんになりたいです」と発言してリハーサルを乗り切り、本番の卒園式でも同じように嘘っぱちの将来の夢を語って無事卒園した。ちなみに当時のわたしはスポンジケーキ全般が嫌いだったのでケーキがあまり好きではなかったし、当然ケーキ屋さんになりたいと思ったことなど一瞬もなかった。正真正銘の真っ赤な嘘だ。
嘘をつかないでいられたらそれが一番よかったのかもしれないけれど、このときのことは思い出すとちょっとだけすかっとしたような気持ちになる。いつもたぁ先生には嫌な思いをさせられっぱなしだったのに、このときだけは攻撃を予知して上手くかわすことができたみたいな感覚があるから。
これがわたしの「空気を読んだ」最も古い記憶である。Xで、子供の頃に大人が喜ぶと思ってわざと子供らしく振る舞ったなあみたいな話を読んだので、わたしにもそんなことがあったぞ…と思って書いてみました。
余談
今振り返るとその卒園式で「大学病院の先生」を挙げていた子がいたのだが、それがなんとなく子供らしくかわいい回答だったな、と思う。そのお医者さんが何科の先生なのかとかそういうことではなく、「大学病院の先生」と捉えているところが子供の視点っぽく思える。