SPEAK NO EVIL(邦題:胸騒ぎ)/監督:Christian Tafdrup

satosansan
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どこかのSNSのタイムラインに流れてきて面白そうだなと思って見に行った。公開は2022年でブラムハウスによるリメイクが決定しているらしい。

「胸騒ぎ」は原題とはかけ離れているものの的確なタイトルで、オランダ人夫婦のふとした言動が引っ掛かり続ける話である。ベジタリアンを自称する主人公の妻に対して「君は魚を食べるのだから、ペスカリアンだろう。」と言い放ったり、外食での会計を客人である主人公に全額支払わせたりと、何かモヤっとするシーンが繰り返されていく。

相手に対して失礼にあたるものの、常軌を逸しているとも言い難いのがポイントで、違和感を抱えたまま物語が進行していくせいで終始「胸騒ぎ」がする。ヒューマンホラーに良く出る良くある人当たりの良いサイコとは違って、明らかに変なのに異常だと言い切れないまま、彼らの魔の手から逃れる機会を失い続ける。

本作が怖いのは、自分がこの場面に直面した時に「無礼な振る舞いにキレて帰る。」という選択ができなそうなところだった。「引っ掛かるところはあるけど、もてなそうとしてくれているのだから見過ごしてやろう。」と考えそうだ。逆ギレされたら面倒だからテキトーにやり過ごそうとも思っていそう。

原題の「SPEAK NO EVIL」は、おそらく「see no evil, hear no evil, speak no evil」からきている。日本で言う「見ざる聞かざる言わざる」のこと。これって日本だけのことわざじゃないのね。

他人の欠点やあやまちなど、悪しきことは、見ようとせず、聞こうとせず、言おうとしないのがよい。

〔英語〕See no evil, hear no evil, speak no evil.(悪しきことを見るな、聞くな、言うな)

引用元:見ざる聞かざる言わざる(みざるきかざるいわざる)とは? 意味や使い方 - コトバンク

原題も見事だなと思う。主人公たちがオランダ人夫婦をおかしいと頭の中で引っ掛かりながら週末を過ごし続けたのも、この「見ざる聞かざる言わざる」の考え方に基づいている。この考え方そのものが元凶とも言えそう。「見ざる聞かざる言わざる」の考えは、相手と波風を立てずに不要な衝突を避けるためのもので、社会で生きていく上で当然のように搭載されるものだけど、それは人の善悪の判断を曇らせる考え方でもあって、思わぬ悲劇を招き入れかねないのかな、と思う。