ある日の夜中。哀れなるものたちという映画を見に行った。
それほど人は居らず落ち着いて見れそうだった。
開始5分前にお年を召した方が入ってきて、近くの席にドカっと座った。嫌な予感。老人は持ち込んでいたビニール袋をガサガサ、飲み物を音を立てて飲み、伸びをして「あぁああ」と声を張り上げた。開始後10分くらいまでそんな調子だった。
老人も作品に没頭したのか、やがて静かになり物語に集中できた。
哀れなるものたちは、身体は大人、頭脳は子供のような女性、ベラ・バクスターが主人公。ベラはとにかく傍若無人に暴れまくる。食事が不味いと感じたら即座に吐き出し、セックスが気持ち良いと教えられると毎晩のようにヤリまくった。子供特有の残酷さで動物を見つけたら殺そうとし、死体にナイフを突き刺して遊んだりもした。人の形はしているものの、野生動物の観察に近い気持ちになった。次に何をしでかすか分からないベラの無軌道さを楽しむのが本作の前半戦だった。
その非倫理的で不道徳的な振る舞いに耐えかねたのか、席を立つ人も居た。横目で見たが、聡明そうなおじ様だった。
ベラは最初こそ野生の塊なのだが、猛スピードで知能が発達する。面白いなと思ったのは、その発達した知性が彼女の野生を凌駕し始めるところだった。後半のベラは、とても理性的で合理的な人間に成長する。自身の置かれている状況を考え、より学びのある道を選び続けていた。
ベラは、いつから人間だったのか。動物と人間の境界はどこで引かれるのか。
エンドロールが終わり、騒がしかった老人を見つめると、退屈に感じたのか眠っているようだった。野性的だなと思った。