DOGMAN/監督:Luc Besson

satosansan
·

リュック・ベッソンといえばレオンだけど、見たことはない。LUCYは30分くらい見て何か肌に合わないから見るのをやめた。良く考えたらこの人が監督する映画を最後まで見たのは初めてだった。

本作は、10数匹の犬を引き連れて逮捕された男、ダグラスが何故逮捕されるにいたったかを追う物語である。日本版のポスターでは「規格外のダークヒーロー爆誕」という煽りがされていたが、嘘だった。彼はダークヒーローではないし、アクションシーンは終盤にあるのみだった。主題は彼の半生についてだったし、ヒューマンドラマの側面の方が強かった。

DOGMANの由来は「NAME OF GOD」だった。逆から読むと「DOG MAN」の文字が現れる。ダグラスは神に背いて、人の上に立つ神よりも人の下に立つ犬を選んだというのが良く分かった。彼は最後まで神に祈ることなく、最後に教会の前に立って神と対峙するシーンに繋がるのがとても綺麗だった。

本作が魅力的だったのは、人の善性について信じているところである。幼少期に神がダグラスに手を差し伸べなかったから彼は神より犬を選んだのだけど、それ以降の彼のターニングポイントには人が手を差し伸べてくれている。

暴力的な父親と姑息な兄から離れ、1人施設に入ることになったダグラスを孤独から救ったのは声をかけてきたサルマと彼女が教えた演劇だったし、職を失って路頭迷ってキャバレーに辿り着いた時は、その時初めて出会ったドラァグクイーンの人たちが店長を説得してくれた。彼女たちとの出会いがなければ、ダグラスもジョーカーのようになっていたのかなと思う。

善性について最も良く表現されていたなと思うのは、ブロードウェイで活躍するようになったサルマと大人になったダグラスが再会を果たすシーンである。

ダグラスは演劇を通してサルマに恋をしてしまい、彼女が施設を辞めて劇団に入って以降も彼女を追っていた。彼女の演劇をこっそり通い、彼女が出てくる記事をスクラップし続けた。

ダグラスは再会するにあたってサルマにそのスクラップブックを彼女に渡してしまう。その凝りすぎている仕上がりに先生と生徒以上の感情を感じ取ったサルマは、表情を曇らせて少し間を空けた後に、ダグラスにお礼を言ってダグラスにキスをする。

彼女はわずか数秒の間にダグラスの想いを理解しつつ自分の感情も整理して、ダグラスにとって思い出の優しい演劇の先生を演じることを選んだように見えた。彼女は優しい人だなと思うとともに役者なんだなとも思った。

予告編を見る限り、ドッグマンは犬を操る狂気に満ちた女装男性に見えたのだけど、実際に見てみると、異常な幼少期を送りつつも他の人と同じように悩み、葛藤しつつも決して狂わずに自分の信念と美学を突き通した男の映画という感じだった。