積読を崩す、10月

satsuki
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公開:2024/11/1

◯柚木麻子『終点のあの子』を読む。再読。ブルースカイで読んでいる人を見かけて懐かしくなって。この本の持つ思春期の女の子たちの繊細な痛々しさが昔とても好きだった、と思っていたけれど、一番好きだった「ふたりでいるのに無言で読書」は思いのほかポップでパワフルな感触もあって、当時から私はただただ痛々しい繊細さだけではなくそこに同居するポップな感じが好きだったのかもしれない、などと思う。

◯ジェフリー・ユージェニデス『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』をやっと読み終える。なんか一ヶ月ぐらい持ち歩いていたような気がする。ミシガンの田舎町の、厳格な家庭に生まれた五人姉妹が末っ子の自殺を皮切りに次々自殺していく話。ひとりずつ順番に死んでいくのかと思っていたら末っ子以外は最後にまとめて死んでしまった。田舎の街で突如起こった自殺というゴシップが引き起こす静かな喧騒と、それで壊れていく家族の話、だったのかな? 回想形式の語り口に混乱しがちだったのと、まったく馴染みのない当時のアメリカの田舎町の若者たちの生活の風景がいまいち想像できないのとで、たぶんぜんぜんうまく読めていないなという感情に打ちひしがれる。解説読むと70年代のアメリカのポップカルチャーに興味があるとよりおもしろいみたいな気配を感じましたが残念ながらそこもまったく明るくなくて、ここまで来ると逆に申し訳なくなってくる。ラストにすごく印象的な一文があってそこは好きです。

◯すこし前にあらすじを読んで衝動買いした高瀬隼子『水たまりで息をする』を通勤鞄に放り込む。1章を読み終え辛くて一旦読むのを止める。みんなが当たり前にできている普通の生活につまづいてしまう瞬間は自分にもいつ訪れるかわからない。こわい。なんとなく作者の方の著作一覧などを見るとタイトルをよく見かけて気になっていた作品ばかり並んでいて、この人の作品をもっと読みたい気持ちとこわいという気持ちの間で揺れる。一旦休憩。

◯だいぶ前に買ったまま机に置きっぱなしだったローレン・グロフ『丸い地球のどこかの曲がり角で』も確かミシガンとかの話だった気がする、と思ったので開いてみたらミシガンではなくフロリダだった。一編だけ読んでからミシガンとフロリダの距離を調べ、自分がアメリカの地理をぜんぜん知らないことに打ちひしがれてそのまま閉じる。面白そうな気配はしたので明日読もうとこの時点では思っている。

◯前日ぐらいからハン・ガンのノーベル文学賞受賞を喜ぶ人たちをブルースカイでたくさん見かけてさすがに気になったので『すべての、白いものたちの、』を買いに行く。時期的に早すぎたのもあってかとくに受賞記念みたいなコーナーもなくひっそりと文庫の棚に差さっていた。こういうのは都会の本屋のほうがあっという間になくなりそう。店頭でぱらぱら眺めてこれはゆっくり読むべき本だなぁと思ったので諸々の用事を片付けてからゆっくり読む。不思議で綺麗で、しんとしていて、でもすごくよくて、読むきっかけをもらえてありがたかったな、などと思う。

◯自分の人生が自分のものでなかった可能性については考えたことがないけれど、もうこの世界にはいない人について思いを馳せたことは何度かある。そういえば以前読んだ韓国文学もそんな話だったなと思いながら、キム・エラン『外は夏』を引っ張り出してくる。引っ張り出すだけで読まない。

◯ともだちがアウシュビッツ博物館に行くと言っていたことを思い出し、いつかは読むべきなんだろうと思って手元に置いてはいるもののぜんぜん読めないでいた『夜と霧』を引っ張り出す。でも今日は配信見ながらのながら読書のお供を探していたのでたぶんぜんぜん集中できない可能性があるし、つまりはストーリーのある小説も向いてない気がする、と思い直して女性作家へのインタビュー集『執筆前夜』を。これもすごくおもしろかった。好きな作家がたくさん取り上げられていて、つまりは好きな人たちのいろんな話を聞けるような本なのでするする読む。数名の方が、いまだにデビュー作を一番好きと言われることに複雑さを感じている、という話をしていて、柚木麻子の作品に対する自分の感情を思い出しこっちも勝手に複雑な気持ちに陥ったりもする。

◯柚木麻子のまだ読んでない本があったはずなので本棚を見に行くものの、そもそも今日は小説の日ではないと思っていたことを思い出し、『執筆前夜』が「書くこと」についてのインタビュー集だったのでもしかしたらその流れのまま読めるのではないかと思って堀江敏幸『書かれる手』を引っ張り出してくる。これに関しては、堀江敏幸の文章はゆっくり静かにたゆたう思索の軌跡みたいな文章なので、ほどほどに立ち止まりながらゆっくり読む。ある程度馴染みのある作家である山川方夫論がいちばんおもしろかったのだけれど、山川方夫の作品そのものが戦争と切り離せないものだから朝引っ張り出してきた『夜と霧』が頭をよぎる。読まない。

◯昨日引っ張り出してきた『外は夏』のほうを読む。再読。この本、再読して改めて良かったのですが、それはそれとして解説で触れられていた「セウォル号沈没事故」についてインターネットで調べた結果打ちひしがれる。打ちひしがれた理由は、そもそもの事故の痛ましさもあるけれど、これだけ大きな事故なら間違いなく日本でも報道されていたはずなのに自分が何も覚えていないこと、たぶん以前に読んだ時も同じように調べて同じようにうなだれたはずなのにそれもまた忘れていること。私は自分に関係のない場所で起きた悲劇についてこんなに簡単に忘れてしまう。解説内では東日本大震災についてもすこし触れられていたので、発売直後に買ったくせにいまだに読みそびれ続けている彩瀬まる『暗い夜、星を数えて』を思い出して引っ張り出してくる。読まない。

◯ぐったりした気持ちを立て直したいので楽しい本が読みたくて、ずっと机の上に置いているSFアンソロジー『GENESIS3』を読みはじめる。すごく好きなアンソロジーなんだけど順不同に読んでいるので既刊でまだ読めていないのはこれが最後。1篇目がいきなりバチバチのアクションSFだったので温度差に面食らい、かつ2篇目がまたちょっと心に重たい話の気配がしたので一旦中断。

◯村上春樹について考えていたら猛烈に気になってきてしまいなぜかずっと手放せない『1973年のピンボール』を引っ張り出す。再読。冒頭の一文「見知らぬ土地の話を聞くのが病的に好きだった」を目にしてたぶん私はこの本を読み終えたあとまた手放す選択はしないで本棚に戻すんだろうな、みたいなことを思ってしまう。読み進めるうちにヒットラーが出てきて机の上の『夜と霧』が頭をよぎる。村上春樹の小説が私にとっておもしろいのかは今回もよくわからなかった。

◯通勤中は引き続き『水たまりで息をする』を読んでいる。「わたしたちは、持ち堪えてしまう。」という一文に立ち止まってしまう。持ち堪えられる強さを持ってしまった人が、生きづらさを叫ぶ人より生きづらさを抱える局面もあるんじゃないかみたいな事をぼんやり考える。

◯帰宅したらネットオフから荷物が届いていてびっくりする。なんなら発送通知がきたときもびっくりした。なんで家にまだ読めていない本がこんなにあるのにさらに買っているんだろう、とひとしきり考えるものの、考えてる間に読んだほうがいいと思う。

◯不意に「友達と二人で行く一泊旅行に本は必要か」みたいな思いにとらわれる。普通に考えたら連れがいるなら本はいらないけど合流までの行き帰りとかホテルで早く目覚めちゃった時とかのために一冊忍ばせておくと安心かもしれない。でも旅の荷物は少なくしたい……こういうときは電子書籍のほうが便利だろうなぁと思いつつも念の為それなりに分厚くちょっとずつ読めそうな短編集、ということでレイ・ブラッドベリ『ふたりがここにいる不思議』を旅行荷物に忍ばせる。一切開かず帰ってくるかもしれないけどまあそれはそれで良しかな。

◯ライブの日。ライブがはじまるまでの時間つぶしに喫茶店で読むための本として角田光代『かなたの子』を引っ張り出す。こわい。ホラーとは聞いていましたが1話目からこわすぎる。しかも気持ちがどんよりするタイプのこわさ。それでも続きが気になってするすると読んでしまうのだからすごいな……読みやすすぎる。3話ぐらい読んで一旦切り上げる。

◯『水たまりで息をする』を読み終える。読後感が重い。正常と異常の境目ってなんなんだろうね。狂えない側の人間が踏み越えてしまった人に寄り添うことは結局は無理なのかもしれないとか、どんな状況でも狂気の側に踏み越えられないというのも別の形の狂気なのかもしれないとか、そんなことを考える。次々読める感じの話を書く作家さんではないのだろうと思いつつ他の作品も気になるな、やっぱり。

◯『二人がここにいる不思議』は結局行きの電車のなかで3編ぐらい読んだので、そのまま通勤用の本として鞄の中に放り込むことにする。

◯ネットオフからお気に入り登録している本が入荷しましたよ、の案内が来て、それが野呂邦暢の作品集だったので慌ててカートに入れる。ついでに送料無料ラインまで適当にカートに本を突っ込んでしまった。今月2度目のネットオフ利用。こんなに読めていない本があるのに……でも欲しくて……読みたくて……。

◯半端に読みかけていた『かなたの子』読了。「わたしとわたしでない女」と「かなたの子」は、生まれなかったこどもたちの話。特に「わたしと〜」は、どうしてもタイミング的に『すべての、白いものたちの、』のことも思い出してしまいなんとなくぼんやりする。女は選ぶ余地もなく母親になる道しか存在しなかった時代についてもなんとなく、考え込んでしまう。

◯『二人がここにいる不思議』読了。レイ・ブラッドベリ、SF作家だと思い込んでいたけれどあんまりSFじゃないかもしれない……と思っていたら解説でこれはレイ・ブラッドベリの作風のひろがりが感じられる短篇集で……と書かれておりなるほどという気持ちになる。SFを求めて買った気がするので拍子抜けと言えば拍子抜けですが、SFというよりホラーの雰囲気が強い「トラップ・ドア」となぜか妙に印象に残っている「ローレル・アンド・ハーディ恋愛騒動」がすごく好きなのでよかったです。

◯この間ネットオフで買った本の中の、ティボール・フィッシャー『コレクター蒐集』をやっと読みはじめる。今は、ネットオフで本を買うのは、どうしても欲しい目的本が入荷したよ!というときだけにしているのですが、これはその目的本でした。おそらくめちゃくちゃ変な小説で、変な小説はよくわかんないけどわくわくしてしまう。ちょっとずつ読もう、と思う。しかし今日もネットオフから本が届いていてぜんぜん自分が本を読む速度に本が増える速度が追いついていない。もう年内は本は買わない……と誓いたい気持ちはあれど、11/1から書店ではじまる牛乳石鹸カバーの配布が気になりすぎるのでたぶんあと2冊は買う……と思う……。


10月は再読込みで10冊読んで、たぶん17冊ぐらい買いました。何故。そんなペースで積読が減るわけがないんですよね……読みたい本、この世に多すぎる。