けっこう前に一度、家族で北陸旅行に行ったことがあります。その時はたしか黒部立山アルペンルートを巡り、富山に一泊した後に金沢に移動して市内散策、というコースのパックツアーだったかな? 当時は金沢といえば海鮮!寿司!みたいに思っていたので、金沢の回転寿司でお昼ごはんを食べ、寿司めっちゃおいしかったよーという話を誰かにした時に、こんなふうに言われました。
「金沢ももちろんおいしいけど寿司とか海鮮は絶対富山!富山に行ってください!」
また別の話。本屋で働いていた頃に版元の人とお話していた時のことです。あれなんらかの飲み会だった気がするので私が辞める時かもしれない。私は地方チェーンで平社員だったので出張とかとは縁がなく、若干憧れがあるみたいな話をしていた時にいや出張は面倒くさいよーみたいな流れの中ででも、とその人はこんなことをおっしゃっていた。
「北陸とか富山とかの地区担当持ってる奴らは絶対あの地区手放さずに嬉々として出張に行きますね、よっぽどごはんがおいしいんだと思う」
どちらが先でどちらが後の記憶なのかは判然としません。それでもこのふたつの記憶はぼんやりと、しかし明確に私の脳裏に刻まれていて、私の中にひとつの人生の目標を形作っていたのです。すなわち、いつか富山でおいしい海鮮を食べるという目標を。
そんなわけで、行ってきました。富山。
こんな書き出しではじめると、めちゃくちゃ計画して行くぞ!と気合を入れて富山まで足を伸ばしたように思われるかもしれませんが、今回の旅に関しては別にそこまで気合を入れて富山に行くための計画を立てていたわけではなく、行先が富山に決まったのは完全に偶然です。
JR西日本がここ数年定期的に期間限定で売り出している「サイコロきっぷ」というキャンペーン商品があります。基本的には大阪発、いくつかの決められた目的地の中からランダムな一箇所までの往復の切符が5000円(最近は、土日に利用する場合は8000円)で買えますというあまりにも破格な旅先ガチャキャンペーンです。その、この秋の候補地に選ばれていたのが、白浜、津山(岡山)、福岡、そして富山でした。
このサイコロきっぷ、2年ぐらい前の秋にも一度買っていて、その時は倉敷を当てました。確か後楽園を散歩して岡山城を眺め、美観地区を散策して、川下りなんかも楽しんだうえで梨のパフェを食べた。秋の岡山・倉敷は本当によかった。それにご一緒してくれたともだちが、あれ楽しかったしまたやってるみたいだからまた行こうよ!と誘ってくれて今回申し込んでくれて、結果当たった先が富山だったのです。
どこが当たってもたぶん楽しいよね、と言いながら振ったサイコロですが、富山は私にとって先述の通りちょっとした目標の地でした。ので富山に決まったのも正直嬉しくて、ここに行きたいあれを食べたい、とそれなりに案出しというていを装ったわがままをいい、しかもその目的地のひとつに関してかなりの大ぽかをやらかしたりもして大変申し訳なかった。でもその大ぽかの結果行くことになった先を含め、総じて楽しい旅行になったのではないかと思います。どうだろう? 楽しかったならいいんだけれど。私はすごく楽しかったけど反面リベンジはしたいので、またいつか富山へは行くと思います。いいとこだったし。なんなら富山だけでなく北陸ゆっくり周りたいぐらいです。
本題に入る前に余談をもうひとつだけ。旅行に行くとき、旅先の天気予報はだいたい1週間前ぐらいからそわそわと確認しはじめることが多いのですが、今回行く予定だった日はかなり直前まで雨時々曇りみたいな予報で、降水確率も90%ぐらい。どうあがいても傘が必要な旅になるだろうと覚悟を決めて当日を迎えていました。そんな当日朝のやりとり

結論から申し上げるとそんな都合のいいことはあった。道中も、富山でも、雲ひとつない、といかないタイミングはあっても基本的にはずっと嘘みたいに綺麗な青空が見えていて、あの天気予報なんだったの!?でことあるごとに言ってしまっていた。寒いのを警戒してそこそこ着込んでいったのにむしろちょっと暑かったしね。実際私たちが立ち去ったあとの富山に雨が降ったかはわからないんですけど、天気にも恵まれ本当に楽しい1日でした。あ、今回の旅は日帰りです。北陸って日帰りで行ける!ということがわかったのも嬉しい収穫。日帰りなのに記事を分けるのか?と思われるかもしれませんがたぶんこの前置きが長すぎるんだよな。でもなんか、書いときたいことたくさんあって……おおむね私のための記録なのでお許しください。
大阪から富山までの移動手段のお話をします。近年、東京から北陸各地には新幹線1本でいけるようになっていて大変羨ましいのですが、大阪から北陸までの新幹線というのは現在繋がっていません。敦賀までを在来線の特急サンダーバードで、そこから先は新幹線、というかたちになります。特急乗り継ぎ再び。しかし私は先日高知で学んだばかりなのでおおむね完璧でしょう、という気持ちです。
ところで今回のサイコロきっぷ、購入の際の諸注意のページにはこんなことが書かれていました。
乗車駅からICカード(ICOCA等)でご乗車いただき、そのまま旅先までお越しいただく場合は、着駅や乗継駅での精算処理にお時間をいただく場合や、その場での精算処理が困難で、後日、駅に改めてお越しいただき精算処理を行う場合があります。
特に、敦賀駅で乗継を行う場合、予定の新幹線に乗車できない可能性があります。
あらかじめご承知おきください。
これね、出発前はぜんっぜん気にしてなくて、いまここでサイコロきっぷについて書くためにちょっと調べ直した時に改めて目に入って!?てなってしまったのですが、今思えばこの注意書きを裏付けるかのように、特急サンダーバードのおそらくすべての座席の前には、なんと新幹線への乗り継ぎ方法を案内するHPへ誘導するQRコードが貼られています。最初気付いてなかったのですが、気付いた瞬間びっくりして同行者にねぇこれ……て話しかけてしまった。HPに飛ぶと乗り継ぎルートの解説が動画になっていたりもして、そんなに難しいのか……?と、二人で不安になって乗り継ぎの猶予時間を再確認したりしました。
実際やってみた感想として、道がめちゃくちゃややこしいということはないのですが、乗り換えのために1階から3階まで移動するかたちになるのでたしかに距離はちょっとあります。かつ、おそらく特急と新幹線の乗り継ぎの猶予時間はだいたい10分ぐらいでダイヤが組まれている感じだったので、直行すればそんなに時間的に危ういという感じはないのですが、トイレに行ったり駅弁やお土産を物色するような心理的余裕はほとんどない。私たちが行ったのは平日なのでわりと混雑はなく落ち着いた雰囲気でしたが、週末で改札が混み合っていたら時間的には危うくなりそうだし、それこそ切符やICカードの処理でエラーが出て対応してもらわないと、みたいなことが起きたら余裕で乗り損ねると思う。週末の雰囲気は知らないのですが、平日の旅にしていてよかった……という気持ちです。
ちなみに特急サンダーバードは滋賀県内で琵琶湖沿いを走ります。出発直後は日差しが眩しく(そう、旅立ちの瞬間から天気良かった、大阪は元々お天気の予報だったんですけど)カーテンを開けられなかった&私は前日上手に眠れなくてけっこう眠かったので、乗り込んでしばらくはちょっと眠らせていただいていたのですが、起きたら車窓に水平線があってテンション上がってしまった。海? 湖? ここ滋賀だよ、琵琶湖じゃない? みたいな話し声が他の座席からも聞こえていました。琵琶湖、綺麗だったな。

雲間から差す光の感じがすごく良くて、なんとか綺麗に撮れないかなぁとぱしゃぱしゃやってたらたまたま湖畔の鳥居がいい感じに収まっていた、という1枚。近くに神社や祠がある感じでもなく、この鳥居はどうしてここにあるんだろうな、不思議。
移動だけなら新幹線や、飛行機のほうが速いとは思うのですが、在来線特急の楽しいところはたぶん車窓の風景の近さなのかなぁ、と今回同行者の言葉もあって思いました。新幹線の窓から見える風景はなんだかすこしだけ遠くて、隔たっている感じがある。特急のほうが窓自体も大きいし、在来路線は新幹線ほど生活圏からくっきり隔たった場所にはないのかな。新幹線に乗っている時間も好きだし、とにかく速くて楽なので、新幹線で行ける範囲に行くことが今まであまりにも多かったのですが、特急のほうが細やかにいろいろなところにいけるし、移動を楽しむ、という観点では魅力的なのかもしれません。今後は旅行のタイミングがあれば、積極的に特急の旅も組んでいきたい。死ぬまでに行ってみたい場所、日本の中だけでも多すぎるので。
移動時間は3時間弱、富山駅にたどり着いたのは10時をすこし回ったぐらい。今回、日帰りということで富山駅から離れた観光地をはじめから除外して考えていたこともあり、富山市内の移動手段はほぼすべて路面電車です。路面電車、好きなのでたくさん乗れて楽しかったな。最初に向かったのは西町という駅で、降りてすぐのところにある富山市ガラス美術館という美術館が、建物の美しさも相まってたぶんけっこう有名なのと、私は透明できらきらしたものが好きなのでガラス細工とかも好きで、前から一度行ってみたいなぁと思っていたのです。あと近くにちょっといい感じの喫茶店があって、あわよくばそこでモーニングを、という話もしていた。していた、のですが……。
私たちが富山に行ったのは平日ど真ん中の水曜日です。そしてこの富山市ガラス館、なんと水曜日は休館日だったのです……!
本当にびっくりした。けっこうずっと行きたかった場所なのでいの1番で行きたい候補地として挙げたんですけど、そこから当日に至るまで一度たりとも休館日を調べようとすら思わなかったということが今振り返っても意味わからない。たぶん、美術館の休館日は月曜日、という思い込みがあって、その思い込みが強すぎて、別の日が休館日である可能性を本当に1ミリも考えていなかったんだと思います。ちなみに近くの行きたかった喫茶店も水曜日は定休日でした。

でもせっかく来たので外観写真だけ撮った。晴れてて建物が青空によく映えたのは救いですね。美術館と図書館となぜか銀行が併設されている不思議できれいな建物だった。なんなら企画展もちょっと興味あったんだよな、悔しすぎるな……。
目的地にはいけないし、お腹もけっこう空いているし、下調べが足りなくて申し訳ないし、という感じだったのですが、同行者がせっかく電車でこの辺まで来たんだからこの近くで他になんか見よう!と言ってくれたので近くの案内板を見て、すぐ近くに城址公園があったのでじゃあこっちに行ってみようか、という感じで城址公園の方へ向かうことに。途中、商店街っぽい通りがありそうだからせっかくだから通ってみようよ、という感じで商店街を通って城址公園に向かうことになりました。開店時間が遅めなのか、このあたりのお店は水曜定休が多いのか、閉まってる店が多めだったかな、半分寝ているみたいな商店街を通ること、多い気がする。

食べそびれたモーニングの代わりに、途中で見かけたスーパーみたいなお土産物屋さんみたいなお店で朝昼兼用ごはんにしましょう、とちょっとだけ買い食いとかもしました。たぶんおいしいものしか置いていない素敵なお店だった。これは富山にある昆布パンというローカルパンをめちゃくちゃおしゃれにアレンジしたっぽいデニッシュなんですが、ふわふわでほんのり甘くて重たすぎないすごくおいしいデニッシュだった。昆布は味というより食感の方で「いるなぁ」という主張がけっこうあって面白かったです。ともだちは本家の昆布パンも買ってたのでまた感想聞きたいな。
そんなわけで城址公園。富山にお城のイメージはあまりなかったし、城址公園、という名前だったのでたぶんもうお城はないんだろうなぁと思いながら向かっていたので、道路を渡って普通に天守閣が見えたことに逆にびっくりしてしまった。昭和に入ってから再建されたもののようで、かつ再現されているのは外観のみ、中は普通に現代的な作りの博物館になっているので、大阪の人間である私はつまりは大阪城スタイルですね、とか思いながら入館しました。そこまで広くはないのですがさくっとまとまった展示で、常設展は日本地図と当時の地名を照らし合わせながら戦国時代の勢力図を辿っていけるのが分かりやすくて面白かったです。
あと企画展が面白かった! 行った時にやっていたのは、富山の薬売りたちが顧客におまけとして配っていた安価な浮世絵の展示でした。江戸で流行っていた有名な作家の浮世絵は高価だし地方まではなかなか流通しなかったため、人気の浮世絵を構図や色数を省略して模した廉価版みたいな刷り物が作られていて庶民には人気だったみたいなことが解説されていたのですが、これ、現代の感覚だとパクリと紙一重みたいな難しい問題になりそうだなぁみたいなことをつい考えてしまいました。当時はコピーの技術とかもなかったし、庶民の手にも入りやすい安価な模倣品は文化の裾野を広げる重要なものだったというのは分かるのですが、模倣される側の感覚ってどうだったんだろうな。名誉なこと、という感じだったんでしょうか。それとも当時の彼らにとっては、遠い地で刷られた自作のの模倣品なんて、あずかり知らぬところのものだったりしたのかな、とか。

日本のお城は本当に青空が似合うと思う。

これに関しては昔のままのものが移設されている、という千歳御門からちょうど天守閣が覗ける感じの角度だったので撮ってみたという写真、信じられないぐらい天気いいな。

天守閣展望台、ガチガチに金網張り巡らされていてびっくりしてしまった。天守閣を展望室にしているお城でここまでがっつり転落防止措置が取られているのは珍しい気もするんですが、昔のままの建物が残っているような城だと、建材保護とか景観維持の観点から逆にこういうことはできないのかもしれませんね。どう転んでも墜落の危険はないということで私も安心して風景を眺められました。
城址公園から富山駅まではもう大通りをまっすぐ歩くほうがてっとり早いよ、ということで公園を出たあとはそのまま城址大通りを北上。途中、松川という大きめの川があり川沿いにお茶屋さんがあります。いかにも観光客向けの和風のお茶屋さんなのですが、このあたりの周囲の風景ってけっこうしっかりオフィス街でもあったので、なんだかちょっと不思議な感じでした。

松川沿いの風景。遊覧船も出ているらしいのですが、今は先日の能登地震の影響で川べりが崩れているのを修復中、とのことで休止になっていました。なんなら松川を渡る橋も通れたけれど修理中だった。今回の旅行中に地震の影響を感じること、他の局面ではあまりなかったのですが、まだまだ元通りとはいかない地区のほうが多いというか、これに関しては完全に元通りにはどう頑張ってもならないんだよなぁみたいなことは思う。今回旅で楽しく使ったお金がすこしでも北陸という地域の貢献になればよいのですが、実際のところはどうなんでしょうね。能登もいつかは行ってみたい土地です。
このあと午後は、富山駅から再び路面電車で岩瀬の街に向かいました。岩瀬もめちゃくちゃよかった!のですが既にかなり長いのでここから先はまた別の記事を立てます。ということで最後にまた余談。今回、通った道筋をけっこう明確に記憶しているのには理由があって、富山の道がそもそもわかりやすいというのもあるのですが、珍しく自分でもけっこうしっかりGoogleマップを確認しながら歩いていたというのがたぶん大きい。
私は典型的な地図を読めない女で、かつ方向音痴なので、昔は地図って見てるだけでわけわかんない、と思考を放棄していた部分があるのですが、最近はGoogleマップを眺めるのが趣味みたいな部分も生まれ考えが変わっています。知らない街を歩くためのものだと思っていた地図に書かれている道が、自分の知っている風景と結びつくと急に面白くなる、ということに気付いてから、知らない土地や街に出かけたあとに、自分が辿った道をGoogleマップで確認することにしているのですが、これがけっこう楽しいんですよね。だから富山は行く前もめちゃくちゃ地図を見ていたし、帰ってきてからもこの文章を書くためにちょいちょい確認しています(川の名前や通りの名前は書きながら確認しました) これ、漠然と歩いていた「知らない道」を地図と結びつけて記憶に残せるけっこういい習慣なのではないかという気持ちがあるので今後も続けたいなぁと今思っている。
あとこれは高知に行っていた時に同行者がやっててなるほど!て思ったので今回富山への往復で私も真似したことなのですが、特急とか新幹線に乗った状態で位置情報をオンにしてマップを開くと、自分が今どの辺りを移動しているかがめちゃくちゃわかりやすくて楽しい。これも、無機的な情報でしかない地図を自分が今いる場所の風景と簡単に結びつけられる面白い楽しみ方だなぁと思ったので今後も積極的にやっていく気がします。技術の進歩のおかげで苦手だったものを楽しめるようになっているの、ありがたいなぁと思う。それで地図を読める女になるかはわかりませんが……。