なんにもできない季節がくるよ

satsuki
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公開:2024/11/27

朝のアラームは3回鳴ります。6:00、6:20、6:30の3回。30分が最終宣告で、さすがにそれが鳴ったらもろもろ支度をはじめないと仕事に間に合いませんよの合図。6時は完全に二度寝用に入れているので、普段は6:20のアラームでのろのろと動きはじめ、30分のアラームが鳴ったらエンジンをかけるぐらいの感じなのですが、元気な季節は最初のアラームが鳴った時点で起き出して趣味のことをすこしだけやったりもできます。しかし冬は、30分のアラームが鳴ってもあとちょっとならいけるんじゃない?みたいな気持ちが生まれてしまいなかなか動き出せなくなる。寒い、というのは原因のひとつではありますが、たぶんすべてではないのかなぁという気がする。

季節性鬱、という言葉を知ったのはもうずいぶん前のことで、別に自分がそうだと思っているわけでもないのですが、明確にそうと診断されているわけではなくとも、そういうふうに、季節に引きずられて心身の調子を崩す人が診断名をつけられるほどいるのなら、実際のところどうなのかは別として私が多少だめになるのもまあしゃあないよな、みたいな気持ちがあって、その診断名を知ってからは冬のぐったりとはすこし付き合いやすくなりました。名前があるって大事なこと。やっぱり冬の、ちょっとどんより重たい空の色は、うっすら全てのやる気を削いでいく感じがあって苦手です。明るい時間が短いのもたぶん要因として大きいんですよね。家出るときも帰るときも空が暗くて、明るい時間はずっと会社の中だから太陽を見ないままの日みたいなのがけっこう続いてしまうのがあんまりよろしくないんじゃないかな。普段からやる気に満ちあふれた人間ではないのですが、冬は、本当に油断すると何もできない。クリスマスとかお正月とかバレンタインとか、街が常に華やかなのだけが救いです。


昔、本当に昔に読んだ、たぶん乃南アサの小説で、転勤だか結婚だかで東北に引っ越した女性が日を追うごとに気持ちを崩しておかしくなっていってしまって、最終的にはもう無理ってなっておそらく退職なり離婚なりして東京(東京だったかは定かではないのですがまあもともとの地元)に戻ったらけろりと治った、みたいな話があるんですけど、当時の私は東北って本当に一度も訪れたことのない土地だったから住む場所でそんなに精神に影響出るの怖すぎるみたいな感想を抱いたような気がしなくもない。今の私には青森に住んでいるともだちがいて、だから一度青森にも旅行に行ったことはあるんですけど、それは真夏で、すかっと晴れた青空の印象がかなり強く、いいところだなぁと思ったしまた行きたいぐらいには好きなのですが、そこで住む、暮らすとなると見えてくる別の側面はあるんだろうな。毎年暖房器具を出すタイミングがめっちゃはやいしな。北国のひとたちによる、冬の生活費に当たり前のように乗っかってくる灯油代を忘れないでくれみたいなポストはSNSでもよく見かけるし、本当に大変そうだなぁと思う。


これも昔の話、スウェーデンのポップスにちょっとハマっていた季節があります。めちゃくちゃ掘ってたわけじゃないので本当に有名どころ、カーディガンズとかクラウドベリージャムとか、そのへんしか分かんないし今覚えてる曲もほとんどないぐらいの感じなんだけど、寒い土地から生まれる音楽のひんやりとさみしい感じがなんだか無性に好きだった。そういうスウェディッシュバンドがインタビューとかで音楽をはじめたきっかけを問われて、寒いから家にこもっていたら音楽ぐらいしかやることがない、みたいに答えてたのが印象的で、なんか、そういう、土地の空気や雰囲気と密接に結びついた音楽ってあるよな、とは思うのです。常夏の島、みたいなところかは絶対に生まれないさみしさが、寒い土地で育った人の作る音楽にはある気がする。

ただ寒い、というよりは雪が降るか否かのほうが大きいのかな。交通とか物流とかが物理的に閉ざされて何にもできなくなる季節、が存在する、あるいはした、ということは、それを知らない土地の人間には想像の難しい感覚なのかもしれない。


インターネットの活動者も、なんかやたらと道民多い説みたいなのがあって、北海道出身、あるいは在住の人が複数名集まってしまって雑談してる時に「まあ実際ネットがないと何もできんからね」みたいな話になっているのを聞いて、それを考えるとインターネットってやっぱりすごいのことよ、と思います。ネットのない時代に普通に暮らしてて青森の子とともだちになれるタイミングがあるかないかって言ったらまあたぶんないものな。地元のともだちみたいな概念もないのでインターネットのない時代だったら私みたいな人間は早々に孤独感に負けていた可能性がある。ありがとうインターネット。この、インターネットの良き側面がこれから先もなくなってしまわないことを祈っています。