積読を崩す。2026年3月

satsuki
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公開:2026/4/1

◯島本理生『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』読了。食事と旅に彩られたおとな二人の恋愛小説、なのかな? 食事が重要なファクターになっている割には食の描写が絶妙に淡白に感じてしまいそこはなんか不思議でしたが、それはそれとしておもしろかった。というか、主な視点人物はおそらく一回りぐらい年上のHIV感染者と恋愛する30代の女性なんだけど、時折彼女の友達とか妹の視点のお話が挟まって、そちらのほうが印象的だったかもしれないです。浮気男の浮気相手として恋愛しながらその彼氏の恋人のブログをチェックするのが習慣になってしまっている友達の話とかかなり好きで、「なに一つ特別じゃないわたしだって一生懸命がんばっていて、世界の本当に端っこで一ミリぐらいは役に立っている」という独白が印象に残っている。

◯堀江敏幸『アイロンと朝の詩人 回送電車Ⅲ』再読。読んだタイミングがタイミングなせいか、十年以上前に出た本のはずなのにひたひたとにじり寄ってくるような戦争の気配との折り合い方みたいな文章ばかりが印象に残ってしまってしんどい。情勢が不穏でも明日が不穏でも、私たちに日々できることは結局なるべく昨日と同じ生活でしかないのかもしれない。

◯庄野英二『星の牧場』読了。好きなイラストレーターさんが装画をしているという理由で気になっていた本で、やわらかな児童文学だと思って開いたら、たしかにやわらかな児童文学でありつつも冒頭から戦争の話が出てきて、もう今はそういうタイミングなのかもしれない。夢のようなおとぎ話のような中盤までの展開がやさしくて楽しい分、中盤以降は読んでて本当につらくなってしまうし、それを経てのラストの情景があまりにもうつくしくて、これはちょっとしばらく忘れがたい読後感だなぁという気持ちです。子供の頃に読んでいたら本当に忘れられない本になったと思う。

◯西崎憲『ゆみに町ガイドブック』読了。ずっと読みたかった本ではあるんだけど新刊出たときに文庫を待とうと見送ったがためにその後一生文庫には入らず単行本も永遠に版元品切重版未定で手にはいらなくなってしまったという苦い思い出の本でした。悔しさと未練からずっとネットオフの入荷メール通知に入れていたのですがそこにすら出てこなくて、もう半分諦めていたころにするっと入荷の通知が来てするっと買えてしまったという本です。びっくりした。西崎憲は『世界の果ての庭』がものすごく好きで、そこからぽつぽつと読んでいて、どちらかというとなに言ってるのかよくわかんないなと思いながら読んでいることも多いのですが、ちょっと翻訳文学の気配を感じる淡々と突き放すような描写が読んでて心地良いのでそれでも読んじゃう、みたいな作家です。これも、ゆみに町という架空の街を舞台にしたスケッチみたいな文章かと思いきやぽんとSFめいた設定が垣間見え、かと思えばそのまま幻想の方に飛んで戻ってこない、みたいな不思議な本だった。

◯くどうれいん『うたうおばけ』読了。ともだちのこと、ともだちというほど深くかかわったわけではない身近なひとのこと、ほんの一瞬人生がすれ違った印象的な誰かのことにまつわるエッセイ集、なのかな? 本文も良かったのですがとにかく文庫本のためのあとがきがあまりにも良くてしばらく抱きしめていたい文章だなぁと思ってしまった。私は結局、どんなジャンルであれ、創作の原動力や根底に「かつての自分に届くように」があるひとが好きなのかもしれない。あと、のちの著作を先に読んでしまったがためにこの本の中盤で何気ない感じでふ、と出てくるミドリさんがのちの旦那さんであるということを知ってしまっている私は、現実において後に結婚に至るお付き合いのはじまりがこんなにドラマチックなことがあるの!?みたいに感動してしまった。あまりにもきらめいていた。素敵だった。

◯スズキナオ『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』読了。タイトルになっている元記事はデイリーポータルあたりで読んだことある気がしていたんだけど(実際読んだ覚えはある)初出みたらデイリーポータルではなくて、あれデイリーポータルじゃなかったんた!になってしまった。この本、ものすごく良くて、自分が最近須磨に行ったばかりだからまた行きたいなぁになったし六甲の方にも行きたくなったし、大阪の居酒屋さんも行ってみたくなった。何よりやっぱりもっと家の近所を歩いてみると楽しいのかもなぁと思いました。とはいえ住んでいる辺りは商店街とが近くにあるわけではないから、こういう街歩きの楽しみを見出すのは難しそうでもあるんだけど。それでも気になるお店は案外近くにもある。あと4章の章題が本当にすばらしいんだけど、それが収録されている最後の書き下ろしの文章がとても良くて、読み終えてずっとじんわりと頭にのこっている。一人の人間が死ぬということ、その人が積み重ねてきた歴史や技術や経験が永遠に失われてしまうということの重みについて考えてしまう。どんなに頑張ってもそれらすべては、別の誰かやあるいは何かにまるっと継承できるものでは、ない。もともとスズキナオさんはパリッコさんとやっている酒飲みユニット(?)で出してる本がめちゃくちゃ良くて大好きで、インターネット上でコラムとかエッセイとか見かけると読んでしまうライターさんなのですが、この好きはもちろん文章が好きとか読みやすいもあるけどそれ以上に世界の捉え方が好き、ということなんだろうな、と改めて思いました。前作も読みたいな。

◯インターネットを見ているとぐんにゃりするという理由から音楽と読書に逃避しがちな3月だった、という気がしていたのですが振り返ると別にそこまで読んではいないな。中途半端に読みかけの短編集が2冊あるので、4月はそれを読み終えるところからのスタートかなぁと思っています。